2012年02月10日

シュポアの序曲集

☆シュポア:序曲集(8曲)

 指揮:クリスティアン・フレーリヒ
管弦楽:ベルリン放送交響楽団
(1991年1月/デジタル・セッション録音)
<CPO>999 093-2


 先日別宮貞雄が亡くなった際、しばらしくして思い出したのが、彼が音楽をつけた本多猪四郎監督の『マタンゴ』であり、その『マタンゴ』で重要な役回りを果たしていた久保明のことだった。
 久保さん、どうしているのかなあ、弟の山内賢(僕らの世代には、日活の諸作品より『あばれはっちゃく』の担任の先生と言ったほうが通りがよいのでは)は亡くなってしまったけど。
 そう思って、ネットで調べたところ、僅かではあるが最近も出演作があるようだし、どうやら日本俳優協会の理事として俳優の地位向上に努めてもいたらしい。
(その点で、同じ東宝出身の小泉博のことを想起する)
 ただ、一時は東宝の青春スターとして将来を嘱望され、黒澤明の『蜘蛛巣城』や『椿三十郎』にも出演していた久保さんが、その後徐々に活躍の場を狭めていったことも事実で、繊細でどこか翳りのある久保さんよりも、加山雄三のような線が太くて大柄で、陽性に見える人間のほうがスターの地位を占めるのだなあと改めて感じたりもした。

 前々回CDレビューで取り上げたフェスカよりも5年前の1784年に生まれ、33年のちの1859年に亡くなったシュポアの序曲集(『マクベス』、『試練』、『アルルーナ、醜い女王』、『ファウスト』、『イェソンダ』、『山の精霊』、『ピエトロ・フォン・アバーノ』、『錬金術師』の8曲)を聴くと、どうしてもそんな久保明のことが思い起こされる。
 古典派の全盛期から初期ロマン派を経、ロマン派盛期の入口頃まで生きたシュポアの作品は、音楽の構成という意味でも、劇場感覚という意味でも全く聴き応えのないものではない。
 メロディラインだってそれなりに美しいし、曲調の激しい展開(一例を挙げると、『錬金術師』)だってよくツボが押さえられている。
 2曲目の『試練』がモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』の、3曲目の『アルルーナ』が同じくモーツァルトの『魔法の笛』の、それぞれの序曲にどことなく似ているのはまあご愛嬌だろう。
 いや味ではなく、モーツァルトとシュポアのこれらの序曲をコンサートのプログラムに並べてみても面白いと思う。
 ただ、例えば近い時期に作曲されたメンデルスゾーンの『夏の夜の夢』の音楽などと比べると、どうしても物足りなさが残ってしまうことも否めない。
 言い換えれば、何かが足りていなかったり、何かが余計であったりという感じというか。
 で、結局そういった印象を与えてしまうことこそが、メンデルスゾーンとシュポアの音楽の受け入れられ方の違いにつながっているように、僕には思われてならないのだ。
 とはいえ、上述した如く、シュポアの序曲そのものの出来が悪いということではない。
 特に、ドイツの初期ロマン派作品が好きな方には安心してお薦めすることができる。
 クリスティアン・フレーリヒが指揮したベルリン放送交響楽団も手堅い演奏で、作品を愉しむという意味では、まず問題がない。

 それにしても、衝撃のラストともども『マタンゴ』の久保さんは忘れられないなあ。
 少なくとも、加山雄三にあの役柄は似合わないだろう。
posted by figarok492na at 17:03| Comment(0) | TrackBack(0) | CDレビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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