2025年10月11日

京都市交響楽団第705回定期演奏会

☆京都市交響楽団第705回定期演奏会

 指揮:ピエール・デュムソー
 独奏:上野耕平(サクソフォン)
管弦楽:京都市交響楽団

 座席:3階C5列11番
(2025年10月11日14時半開演/京都コンサートホール大ホール)


 なんと前々よりお世話になっている方のご厚意で、今月もチケットを譲っていただいた。
 感謝の気持ちをどう表せばよいものか。
 本当に本当にありがとうございます!!
 なお、座席は3階センター左側の一番奥の列。
 音がよく響いて聴こえる。

 で、今回の指揮は客演のピエール・デュムソー。
 1990年のフランス生まれというから未だ30代半ばだけれど、パリ国立歌劇場(パリ・オペラ座)をはじめとした世界各地の歌劇場で活躍しており、オペラ全曲やアリア集を指揮したアルバムもすでにリリースされてもいる。
 参考も兼ねて、リール国立管弦楽団を指揮してメゾソプラノのエヴァ・ザイシクの伴奏を務めたアリア集『Rebelle 立ち向かう女』を聴いたが、勘所を押さえた流れのよい演奏のように感じた。
 ちなみに、ザイシクは軽みがあって澄んだ美声の持ち主。
 Rebelleというタイトルには、belleへの含みもあるのだろうと思う。

 前半1曲目は、ピエルネの劇音楽『ラムンチョ』序曲。
 『ラムンチョ』は、フランスのバスク地方を舞台とするピエール・ロティ原作の戯曲への音楽だけど、まずもってこの曲を実演で聴くことができたことが嬉しい。
 デュムソーさんは京響を巧くコントロールして、まさしく劇の開幕に相応しい、鳴りがよくてリズミカルな音楽を生み出していた。
 なお、今日のコンサートマスターは泉原隆志で、第1ヴァイオリンとヴィオラが向かい合う通常の配置。

 続く2曲目は、上野耕平を独奏に迎えたトマジのバラード。
 1992年の生まれだから、上野さんは指揮者のデュムソーさんと同世代。
 日本を代表する若手サクソフォン奏者であるとともに、NHK・FMの日曜お昼の番組『×(かける)クラシック』では、市川紗椰とコンビを組んでほどよいマニアックさを発揮している。
 トマジのバラードは、録音実演、ともに初めて聴く作品。
 サクソフォンがまるで一人の人物の人生を描いているようだなと、大はしゃぎしながらもなんとも翳りのある音楽を聴きつつ思っていたら、終演後にパンフレットの解説を読んで合点がいった。
 道化師の哀切を主題にしたトマジの夫人で詩人のシュザンヌ・マラーヌの詩に基づいた作品なのだという。
 高い技量の持ち主であることは今さら言うまでもないが、上野さんはそうした技量を駆使して音楽の持つ喜怒哀楽、感情の変化を的確に描き分けていく。
 デュムソーさんと京響も、そうした上野さんをよく支えて間然としない。
 心魅かれる演奏だった。
 上野さんのアンコールは、技巧に富んだボノのワルツ形式によるカプリス。
 ここでは、落語のサゲのようなラストに上野さんのしゃれっ気すらうかがえた。

 休憩を挟んだ後半は、ショスタコーヴィチの交響曲第10番。
 京都市交響楽団のショスタコーヴィチの10番といえば、井上道義が指揮した第334回定期演奏会(1991年7月)、外山雄三が指揮した第531回定期演奏会(2010年1月)と今までに2回聴いている。
 井上さんのほうは、ソ連が崩壊したのと同じ年、例の反動クーデターが無惨に失敗する直前のコンサートで、ある種の息苦しさとやぶれかぶれに近い狂熱を感じる演奏。
 一方、外山さんのほうは、上田仁や芥川也寸志と並ぶ日本におけるショスタコーヴィチ演奏の先駆者らしい、この曲が作曲された当時をよく知る人ならではの重たくて芯のしっかりとした演奏。
 いずれも、映像作品でいえばドキュメンタリー作品にあたるように思う。
 デュムソーさんの場合は、史実をもとにしたフィクションの大作といった感じがした。
 個々のエピソードをしっかりと踏まえつつ、そこにスペクタクル的な要素であるとか、人間の内面のあれこれを落とし込むといった。
 第1楽章のある種の禍々しさ、第2楽章の強引さ、第3楽章のショスタコーヴィチの「ないしょの手紙」的な仕掛け、第4楽章の破れかぶれのはしゃぎっぷり。
 作品の要所急所、作品の持つ劇的な性格を一つ一つ丁寧に読み込んだ上で、流れがよくてパワフル、諧謔性や絶対的な暴力性を巧みに表現していたし、京響も精度の高い演奏でそうしたデュムソーさんの解釈によく応えていた。
 かてて加えて、今日の演奏では、ショスタコーヴィチへのマーラーの強い影響を改めて感じた。
 作品につくりもそうだし、それより何より音楽の根幹にある精神性の部分での。
 死生観というか、厭世観というか。
 そして、ラストの大はしゃぎにはいつ聴いてもなんとも言えない哀しさを覚えてしまう。
 その意味でも、トマジのバラードとこのショスタコーヴィチの交響曲の組み合わせは実にぴったりだった。

 できることならば、今度はデュムソーさんの指揮でフランスの歌物を聴いてみたい。
posted by figarok492na at 18:39| Comment(0) | TrackBack(0) | コンサート記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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