度々来日して東京都交響楽団やNHK交響楽団とよく共演していたガリー・ベルティーニだが、僕は彼の実演には二度しか接したことがない。
いずれもケルンの放送交響楽団を指揮したコンサートで、一度目は1990年11月28日のフェスティバルホールでのマーラーの交響曲第5番。
ただこのときは、ホールの上のほうに座ってオーケストラを眺めている情景は記憶しているものの、音楽についてほぼ覚えていない。
しかし、二度目の1993年11月6日のケルン・フィルハーモニーでのコンサートのことは未だに忘れられない。
前半がドビュッシーやラヴェル、後半のメインがチャイコフスキーの交響曲第5番というプログラムで、よくコントロールされて無駄な部分のない、それでいて音楽の頂点がはっきりとわかるドラマティックな内容だった。
当時ケルン放送交響楽団のシェフだったハンス・フォンクがどこか緩い音楽づくりに終始していた上に、ベルティーニのコンサートの翌日、アルミン・ジョルダンとスイス・ロマンド管弦楽団とやって来て、前半と後半の違いはあれど、同じドビュッシーの海とラヴェルのラ・ヴァルスをほわんほわんした響きで聴かせたものだから、ますますベルティーニの指揮の締まり具合が強く印象に残ったのだ。
そのベルティーニがシュトゥットガルトの放送交響楽団と遺したライヴを中心とする録音が、今年になってまとまってリリースされた。
ここのところ、それをちょこちょこ聴いていたが。中ではワーグナーの歌劇『さまよえるオランダ人』序曲の丹念で濃密な音楽に感心した。
今夜は、その組み合わせでモーツァルトの交響曲第40番を聴いた。
1996年12月1日の東京芸術劇場でのライヴ録音である。
非常に速いテンポ、そしてよく引き締まったベルティーニらしい演奏だ。
細部までよく考え抜かれているから、淡々と進んでも素っ気なさまでは感じない。
実にクリアな音楽で、聴きやすい。
この曲につきまとうロマンティックな感傷、というかデモーニッシュさは一切感じず、古典派の短調の交響曲のよくできた演奏を聴けたといった感想になるが。
それはそれで悪くない。
2024年03月20日
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