ヴィルヘルム・フルトヴェングラーがウィーン・フィルを指揮したワーグナー編曲によるグルックの歌劇『アウリスのイフィゲニア』序曲<WARENER>を聴く。
ギリシャ悲劇によるグルックのフランス語のオペラをワーグナーがドイツ語に訳して編曲した上に、さらに演奏会用にコーダを施したもの。
冒頭から重々しい足取りで、まさしく荘厳な古典劇が始まる予感がする。
そして、そのまま重たい足取りのまま音楽は続く。
時折、まるで宿命天命を表すかのようなファンファーレが何度か繰り返される。
フルトヴェングラーの持つ音楽的劇性が全開となった演奏だ。
しかし、この曲で最も強く印象に残ったのは、徐々に静謐さに向かうコーダだ。
特に、消え入るような最後にはぞくぞくとした。
濃密な10分間だ。
念のため、原曲であるグルックの『オーリードのイフィジェニー』の序曲を聴いてみる。
ジョン・エリオット・ガーディナーがピリオド楽器のオーケストラ、イングリッシュ・バロック・ソロイスツと録音した全曲盤から。
テンポは速めだが、冒頭部分は荘厳さを感じないでもない。
ところが、しばらくすると音楽は一転、フルトヴェングラーではそのまま歩む速度は変わらないのに、こちらガーディナーのほうは突然駆け出す。
悲劇もへったくれもない走りっぷりは、軽やかで楽し気ですらある。
まあ、もとはといえば、グルックの音楽自体、本当はそういった性格のものであって、フルトヴェングラーとウィーン・フィルの演奏はあくまでもワーグナーという19世紀最大のロマンティストのフィルターを通したものであるということだ。
ちなみに、こちらのほうは6分ちょっと。
そら速いわな。
2024年03月08日
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