ドビュッシーの作品の中で一番好きなのは、小組曲の第1曲「小舟にて」だ。
それも原曲のピアノ連弾によるものではなくて、ドビュッシーの友人アンリ・ビュッセルが編曲した小管弦楽版のほう。
かそけきハープに乗って奏でられるフルートのたゆたうようなソロが、なんとも美しい。
初めて聴いたのは、今からもう40年近くも前になる1987年9月の長崎交響楽団の定期演奏会で、指揮者はフォルカー・レニッケ。
演奏自体は正直当時のアマチュア・オーケストラの水準通りで厳しいものだったが、それより何より音楽の美しさに魅了された。
それ以来、いろいろとCDを聴いているが、この一枚さえあればという録音には巡り合っていない。
強いてあげるなら、ジャン・マルティノンとフランス国立放送管弦楽団ということになるが、明晰な音楽のつくりには魅かれるものの、録音の音質その他、何がなんでもとまでは言い切れない。
自分にとってベストの小組曲を見つけたいという思惑で、フランスの指揮者、パスカル・ロフェが国立ロワール管弦楽団と録音したアルバム<BIS>を聴いてみた。
よくコントロールされたオーケストラで、リズミカルな演奏。
悪い演奏ではない。
でも、残念ながらやっぱりしっくりこない。
一つには、明瞭だけれど奥で狭くなるような録音の音質もあるのかもしれないが、全体的に音が低めでくすんだ感じがする。
あくまでも自分の好みをいえば、この曲には夕方前の陽の光がきらきらと水面に映えているような明るさが欲しい。
小組曲では、それこそリズミカルな終曲「バレエ」がロフェの柄に合っているように感じた。
というか、ロフェはリリカルでナイーブな表現よりも躍動感があるものや、細部への徹底した腑分けのほうに一層特性を発揮する指揮者ではないだろうか。
このアルバムでは、アンドレ・カプレが編曲したバレエ音楽『おもちゃ箱』と子供の領分がカップリングされているが、ビュッセルの素直な編曲に比較して、より捻りが効いており、ドビュッシーの音楽の持つ「新しさ」も巧く強調されている。
そして、ロフェはそうした部分、良い意味でのぎくしゃくとした感じや音の組み合わせを的確に再現している。
国立ロワール管弦楽団も、ロフェの解釈にそって洗練されたまとまりのよいアンサンブルを聴かせていた。
自分にとってのベストの小組曲探しはまだまだ続くが、これはこれで聴き応えのあるアルバムである。
ところで、1872年生まれのビュッセルが亡くなったのは1973年。
自分が生まれ頃には、彼はまだ存命だったのだ!
2024年03月06日
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