ストラヴィンスキーが遺した数多い作品の中で何が一番好きかと問われたら、迷うことなくバレエ音楽『プルチネッラ』を挙げる。
ペルゴレージ、と思いきや実は無名のドメニコ・ガッロやらヴァッセナール伯やらの音楽を下敷きにしてストラヴィンスキーが仕立て直した茶番劇。
できれば三人の独唱者も加わった全曲版がいいが、美味しい部分を選り抜いた管弦楽だけの組曲版でも文句ない。
なんならヴァイオリンやチェロのために編曲されたイタリア組曲でもいい。
いずれにしても、『プルチネッラ』の音楽を聴いたら嬉しくなってくる。
今日は、オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団が演奏した組曲<WARENER>を聴いた。
クレンペラーといえばドイツ・ロマン派の巨匠といった扱いがされがちだが、もとはといえば新即物主義的な楽曲解釈の持ち主で、第1次世界大戦後ベルリンのクロール・オペラを舞台に斬新な出し物を取り上げて大いに脚光を浴びた指揮者でもあった。
まあ、それから幾星霜、1964年に録音されたこの録音では縦の線がきっちり揃わなかったり、リズムが緩くなったりと寄る年波による変化は如実にあらわれてしまっているのだけれど。
かつて鳴らした人物の昔話を聴くような味わいがある。
かえってわかりにくい譬えになるかもしれないが、若き日は新国劇の大看板として鋭い殺陣を見せていた辰巳柳太郎が、晩年あえて耄碌爺を演じきっていたというか。
ただ、そうしたぴっちり全体をまとめ上げる演奏ではないからこそ、ストラヴィンスキーが手を加えた部分の個性、おなじみ三大バレエに通じロシア的な響きなどがよくわかるように感じたことも事実だ。
例えば、エサ・ペッカ・サロネン指揮ロンドン・シンフォニエッタ他によるスタイリッシュでシャープな演奏に慣れ親しんでいる人にこそお薦めしたい録音である。
2024年02月23日
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