マイケル・アレクサンダー・ウィレンス率いるピリオド楽器オーケストラ、ケルン・アカデミーが演奏したモーツァルトの序曲集<BIS>を聴いた。
収録されているのは、『救われたベトゥーリア』、『イドメネオ』、『フィガロの結婚』、『後宮からの逃走』、『コジ・ファン・トゥッテ』、『劇場支配人』、『ポントの王ミトリダーテ』、『偽の女庭師』、『ドン・ジョヴァンニ』、『ルチオ・シッラ』、『皇帝ティートの慈悲』、『魔笛』の12の序曲。
1993年の晩夏から1994年の初春まで滞在したケルンは古楽器、ピリオド楽器演奏のメッカの一つだったが、ケルン・アカデミーの結成は1996年なため、あいにく実演には接しそびれたままだ。
個々の技量も確かだしアンサンブルもよくまとまっている一方、ウィレンスとケルン・アカデミーは予想通り歯切れがよくてスピーディー、加えて荒々しい音も辞さないパワフルな演奏で、先日聴いたブルーノ・ワルターとコロンビア交響楽団の演奏が実に穏やかで古風に思えてきた。
実演録音問わず、このコンビのオペラ演奏を聴いていないからその劇場感覚について判断するのはひとまず控えるものの、それこそ「革命劇」のはじまりに相応しい『フィガロの結婚』序曲はじめ、そのままオペラが始まらないのがどうにも残念なわくわくとする音楽を聴かせてくれる。
ちなみにこの場合の劇場感覚とは、オペラ演奏の多寡に基づき、オペラのだれ場見(聴か)せ場を見極めて音楽の持つドラマ性を的確に再現することと、上演当日のオーケストラ、舞台上、客席にいたる劇場の状態にあわせて臨機応変に対応すること、そういった劇と劇場全体に通じた能力と考えてもらえればよい。
演奏そのものではなくアルバムのコンセプトに若干疑問や不満があるとすれば、ある程度は予想はつくものの曲の順番についてあまり明確でないこと。
収録時間はまだ十分に残っているにも関わらず、『アポロンとヒュアキントス』、『バスティアンとバスティエンヌ』、『偽ののろま娘』、『アルバのアスカニオ』、『羊飼いの王様』、バレエ音楽『レ・プティ・リアン』の序曲が除外されていること。
それから、『偽の女庭師』序曲が最初の軽快な部分に戻らず中間部で終わってしまっていることだろうか。
繰り返しになるが、演奏そのものは十分十二分に愉しめる。
2024年01月24日
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