1枚1000円はよいとして、演奏しているのがあんまり知らない東欧のオーケストラや演奏家じゃ、安かろう悪かろうじゃないの。
と、思わせておいて、聴いてみたならおや、なかなかの演奏じゃないか。
といった商売のやり方も昔の話。
レパートリーの豊富さはそのままに、デビュー間もない新進気鋭の若手から進境著しい中堅層、さらにはレナード・スラットキンといったベテランとバラエティ豊かな演奏家を起用して今やナクソス・レーベルはマイナー中のメジャー、というより、メジャーやマイナーの壁も相当とっぱらってしまった。
それに、HMVのオンライン・ショップを調べてみたら、セールでなければ会員でも1枚1600円、会員以外は2200円と値段の面でも全くお安くなくなった。
で、そんなナクソス・レーベルが最近プッシュしている指揮者の一人が、フランス出身のジャン=リュック・タンゴーだ。
1969年生まれだからこちらと同い年、マニュエル・ロザンタールのアシスタントなどを経てオペラ中心に活躍していた人だけれど、ナクソス・レーベルはフランス(系)の作曲家の管弦楽曲を彼に任せることにしたらしい。
そのタンゴーがベルリン放送を指揮したフランクとショーソンの交響曲を聴いたが、これはすこぶる聴き応えのあるアルバムだった。
当然、近年の演奏の潮流そのままに速いテンポをとるものと決めてかかったら大間違い。
フランクは全篇、ゆっくりとしたテンポで細部を丁寧に表現していく。
ただし、音色を濁らせず見通しが良いため、全く重たくならない。
第1楽章もそうだし、第2楽章など、管楽器の主旋律の後ろで弦楽器が「蠢いている」のが手に取るようにわかる。
終楽章など、昭和のヤマカズ山田一雄が京都市交響楽団を相手に呻き声を上げながら狂喜乱舞する姿が今も忘れられないのだけれど、ここでもタンゴーは焦らない。
結果、フランクの音楽の持つ官能性(法悦性とはあえて書かない)が見事に浮き彫りになっていた。
一方、同じく3楽章の構成等々、師匠フランクの影響を色濃く受けたショーソンの交響曲も、冒頭ゆっくりしたテンポで始まる。
が、主部に変わったとたんの音色の変化にはっとする。
フランクの音楽がどこか閉じられた感じがするとすれば、ショーソンの音楽には開かれた感じがするのだ。
第2楽章は、ヴァイオリンと管弦楽のための詩曲、ヴァイオリン・ピアノと弦楽4重奏のためのコンセールと共通する艶やかさ、その美しさに心魅かれる。
そして、終楽章ではひときわワーグナーからの影響が明確になる。
ベルリン放送交響楽団もそうしたタンゴーの音楽づくりによく応えて、アンサンブル・ソロの両面で精度の高い演奏を行っていた。
もし不満があるとすれば、ナクソス全般にいえることだが、録音の音質が少々浅いというか薄いというか、物足りなさを感じることか。
クリアであることには違いないのだけれど。
とはいえ、これは大いにお薦めしたいアルバムだ。
2024年01月21日
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