ディマ・スロボデニュークは1975年にモスクワに生まれたが、現在は17歳で移り住んだフィンランドを拠点にしている指揮者だ。
スペインのガリシア交響楽団やフィンランドのラハティ交響楽団のシェフをつとめる傍らヨーロッパ各地に客演し、2019年にはNHK交響楽団も指揮、あいにく新型コロナのせいで2021年の来日はとりやめになったものの、今年11月には再び来日し今度はN響の定期公演を指揮する予定である。
CDのリリースも少しずつ増えたり、ベルリン・フィルにも登場したりと少しずつこの国でも認知度が高まっているのではないか。
僕がスロボデニュークの存在を知ったのは、YouTubeのガリシア交響楽団の公式アカウントがアップしたライヴ映像によってだ。
ちょうどガリシア交響楽団が動画配信に積極的になりだした頃の常任指揮者がスロボデニュークで、古典派からロマン派、現代音楽まで幅広い音楽を聴くことができた。
ライヴゆえの傷はあるし、ガリシア交響楽団のアンサンブルも超一流とは言えないが、独特のノリがあって聴いていて実に愉しい。
スロボデニュークもそうしたオーケストラの特性を活かしつつ、よくコントロールのきいた音楽をつくり出していた。
今回聴いたのは、スロボデニュークがラハティ交響楽団を指揮してプーランク、プロコフィエフ、ブリテンのシンフォニエッタを録音したアルバム<BIS>だ。
シンフォニエッタとは、簡単に言えば小ぶりな交響曲とでもなるか。
規模だけではなく、音楽面でも交響曲ほどには厳格でなく、もっと肩肘張らない内容になっている。
プーランクは道化師の仮面の隙間からシリアスな表情が見え隠れするような、躍動感があって軽妙洒脱な音楽の中にちょっとずつ真面目な地の部分が聴こえてくる。
プロコフィエフはロシア革命以前、18歳のときの若書きで、実に軽快で明快な音楽。
同じくブリテンも18歳のときに作曲した作品番号1の作品。
だから、後年皇紀2600年にシンフォニア・ダ・レクイエムをぶつけてくるような尖った感じはまだなくて、全体的にロマン派の残滓を色濃く感じる音楽となっているが、それでも「僕は仮面は着けません、道化師になる気もありません、無理しておかしなことも言いません」といった風はある。
スロボデニュークは各々の作品の特徴を的確に描き分けるとともに、線がはっきりして均整のとれた音楽づくりを行っている。
ラハティ交響楽団は、ソロでもアンサンブルでも過不足ない演奏だ。
20世紀の音楽はどうにもとっつきにくいと思っている人にこそ大いにお薦めしたいアルバムである。
2024年01月06日
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