もともとソプラノ歌手だったアンナ・マグダレーナ・ヴィルケは、ヨハン・セバスティアン・バッハの後妻となり、のちには視力障害となった彼の作曲を援けもした。
そのアンナ・マグダレーナのためにバッハが与えたのが、いわゆるアンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳だが、現在ではそこに収められた少なからぬ作品がバッハ以外の作曲家によって為されたものだと判明している。
ラヴァーズ・コンチェルトの原曲でも有名なメヌエットト長調も、実はクリスティアン・ペッツォールトの作品である。
そのアンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳のセレクション<hyperion>を、イラン系アメリカ人のチェンバロ奏者マハン・エスファハニとソプラノ歌手のキャロリン・サンプソンが録音した。
エスファハニといえば、ドイツ・グラモフォンに録音したバッハのゴルトベルク変奏曲のCDが手元にあって、チェンバロという楽器の効果と限界を知り尽くした表現に魅了されたが、ここでは曲によってチェンバロとクラヴィコードを弾き分けている。
小品集ということで、一聴すると取り立てて大きな仕掛けが施されているわけではない。
だが、集中して耳を傾けると、装飾そのほか、細やかな配慮がなされていることがよくわかる。
特に、音量の小さなクラヴィコード(小型の楽器でチェンバロと比較すると構造もシンプル)でのニュアンスの豊さには惹き込まれた。
(CD販売サイトの新譜紹介でも、音量についてエラーではない旨の記載がある。余談だけれど、30年近く前、JEUGIA四条店のクラシック担当のアルバイトをしている頃、クリストファー・ホグウッドとクリストフ・ルセがクラヴィコードで演奏したバッハの2重奏曲のCDに関して、故障品ではないのかとクレームが何件かきたことがあった)
このアルバムのもう一つの魅力は、やはりサンプソンの澄んで伸びのある歌声だ。
エスファハニ同様、繊細な歌唱で実にインティメートな雰囲気を生み出している。
非常に充実したアルバムだった。
かつて気球に乗った山本直純が大きいことはいいことだと煽りたてるCMがあったけれど、ただただ大きいことばかりがいいとは限らないとつくづく思う。
2024年01月02日
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