☆熊谷みずほプレゼンツ3「五里夢中」
作・演出:熊谷みずほ
(2022年12月16日15時半開演/the SITE)
うつし世はゆめ
夜の夢はまこと
とは、江戸川乱歩の言葉だけれど、熊谷みずほプレゼンツ3「五里夢中」ってまさしくそれだなとふと思った。
1.死んでしまった恋人の夢のはなし、2.まだチューリップにならないで、3.27時の恋、+毒を仕込まば待つだけ、いずれも夢が大きな意味を持つ小品四篇だが、それとともに死や告別もまた色濃く描かれた作品だった。
熊谷さん個人をある程度知っている上に、ほんの少し前に身近であった出来事もあって観るこちら側がどうしてもうつし世に引きずられてしまいもしたけど、より抽象的で普遍的な寓話ともなっていたし、それこそ毒のある滑稽さも仕込まれていて、第1回目の『墓入り娘』からこの間の熊谷さんの芝居の作り手としての変化がよくわかった。
言い換えれば、もとよりの熊谷さんの強さと弱さ、賢さと愚かさ、かわいさと意地悪さが一層洗練されて表現されたというか。
それをまた飯坂美鶴妃、藤村弘二、横山清正がよく演じていたし、熊谷さんがそうした三人の魅力をよく引き出してもいた。
(『墓入り娘』の感想でも記したのでくどくどと繰り返さないが、当然それは熊谷さんのプラスばかりでなく、自分はこう演じたかった、自分ならこう演出するのにといった演劇的なマイナスの経験の反映でもあるだろう)
まずは、四篇全てに出演した飯坂さん。
一つ一つの内容にあわせて表現を細かく変化させる一方で、演じ手としての核になる部分がしっかり窺えてとても嬉しかった。
また、藤村君は単純に技量をつけるだけでなく、よい意味で初めて接した頃の不器用さ、生きづらさを演技の中に未だに保ち続けて役柄に合っていたし、横山君はシリアスさの中に怪しさうさん臭さ、やってるやってる感があって観ていて愉しい。
あと忘れちゃいけない、勝手に京都小劇場の千葉繁と呼んでいる横山君の声がまたよかったんだ。
いずれにしても、僅か30分間とは思えない濃密さを感じることができた公演で、足を運んで本当によかった。
そうそう、全てが終わっても、よかったらすぐには席を離れず、劇の余韻に耳をすませてもらえればと思う。
2022年12月16日
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