2021年07月23日

第29次笑の内閣『マクラDEリア王』

☆第29次笑の内閣『マクラDEリア王』

 作・演出:高間響
(2021年7月23日13時開演の回/THEATRE E9 KYOTO)

 東京から地方都市鰤天(ブリテン)市に拠点を移した演劇界の大物演出家千葉ジョーは、公営劇場イルミネーションシアターの次期館長に選ばれるが、彼はハラスメントの常習犯で…。

 といった具合に、昨年9月の第28次笑の内閣『東京ご臨終〜インパール2020+1〜』からちょうど10ケ月ぶりの観劇となる同じ笑の内閣の『マクラDEリア王』は進んで行く。
 シェイクスピアの四大悲劇の一つおなじみ『リア王』に、地点の三浦基さんが劇団員に起こしたパワーハラスメントとロームシアター京都への館長就任にまつわる騒動や、北九州におけるセクシャルハラスメントの問題など演劇界が抱える様々なハラスメントの問題を重ね合わせた趣向結構というわけだが、そこは高間君のこと、各種くすぐりやプロレス等々、邪劇性にも十分十二分に飛んでいて笑の内閣らしい芝居になっていた。

 などと、それらしいことを書いているけれど、幕が開くまでは、笑の内閣ならぬ、自分は笑の無い客になってしまうのではないかと内心強く心配していたことも事実だ。
 一つは、昨今のコロナやオリンピックがらみのグロテスク極まる現実の悲喜劇喜悲劇の連打もあって、小劇場界というミニマムな問題を織り込んだ虚構を自分が心底愉しめるのかという疑問があったからなのだけれど、もう一つは、高間君自身や笑の内閣(集団としてもそうだし、個々の公演としてもそうだ)のこの間のあり様に大きく関わっている。

 旗揚げ公演はひとまず置くとして、僕が親しく接するようになった頃の笑の内閣と高間君の作劇の特性を単純にまとめるとすれば、短いスパンでの場面転換で交差し混交する社会的時事的主題を担保するための長めの「説明台詞」と高間君の真情が前面に押し出されたり背後に隠されたりするエモーショナルな言葉を、演技力ではばらつきはありつつも、個性に富んだ若い演者陣がやたけたさ全開で面白いものに仕上げていたということに尽きる。
 だが、それから10年近くが経ち、上述したような性質は未だに残しつつも、高間君のスタイルに大きな変化が起こった。
 メタ的な仕掛けなど演劇的志向が一層試行されるようになってきたし、周囲の人々への強い想いに裏打ちされた人間観察にも磨きがかかってきた。
(当然それは、政治的活動も含めた社会的認知度の上昇による自負や自覚、他方での家庭的な「破綻」の小さからぬ反映でもあろう)
 同時に、それに伴って笑の内閣の座組みも、それまでの良くも悪くも共同体的ゲマインシャフト的(まあ、高間君がやる芝居だから出るっきゃないか!)なものから、より利益性機能性が増したゲゼルシャフト的(この公演は自分にとってこれこれこういうプラスがあるので出演したい)なものへと傾き始めた。
 その分、演技力の高い演者が顔を並べるようになったのだが、ここがお芝居の難しいところで、ただ巧いだけじゃあ愛嬌がなくなる。
 かえって上述した高間君の本の要所急所も露わになったりもして、主題の選択の妙から玄人受けは増してきたものの、学芸会的な愉しさにも精度を極めた三谷幸喜流儀のウェルメイドプレイにも振り切れない宙ぶらりんの状態がここ数年間、笑の内閣は続いてきたのではないか。

 ところが、今回の『マクラDEリア王』では、リア王ならぬ千葉ジョーの萬谷真之をはじめ、山岡美穂、熊谷みずほ、斉藤ひかり、杉田一起、飯坂美鶴妃、白石幸雄、野口萌花、中路輝、三鬼春奈、松田裕一郎、由良真介ら演者陣の均整がなべてとれていた。
 二日目の昼ということもあってかライヴ特有の傷はあったが、緩急強弱といった感情面台詞面のギアのチェンジなど作品に副う努力が重ねられていたし、色気やフラ(おかしみ)といった個々の魅力も明確に出ていた。
 結果、作品としての面白さはもちろんのこと、今演劇に関わるということの意味や意義もよく伝わってきたように感じた。
 中でも、感心したのが実質上の悪役瀬戸主水を演じた髭だるマン。
 以前はそれいけどんどん押し一辺倒だったのが、アクの抜き方、引き方が見事で、演じる役柄の陰影がぐっと濃くなった。
 今後の彼の活躍にますます期待したい。

 一つないものねだりをするとすれば、千葉ジョーの「凄さ」を知らしめるシーンか。
 それこそ三浦基風の本気の演技の本気の場面をどこかに挟めば、小林賢太郎も真っ青の苦い笑いが生まれた気がする。
(なんなら飯坂さんや三鬼さんあたりに「仮面」をつけてやってもらえばいい)

 ああ、面白かった!!!
posted by figarok492na at 18:27| Comment(0) | 観劇記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。