監督:堀川弘通
(2020年2月11日17時上映の回/京都文化博物館フィルムシアター)
松本清張原作の映画化といえば、なんと言っても橋本忍。
そして、松本清張と橋本忍とくれば、野村芳太郎ということになるが、小市民の悲哀を描いた堀川弘通監督の『黒い画集 あるサラリーマンの証言』も忘れちゃいけない。
公開された1960年は、まさしく日米安保改定で日本国中が騒然となった年だけれど、一方で高度経済成長が着実に進み、各種企業に勤めるサラリーマンの存在が良きに付け悪しきに付け大きくなっていった時期でもあった。
あるサラリーマンの証言と題名にもあるように、この作品でも小林桂樹演じるサラリーマンが物語の主人公となっている。
中堅企業の課長である主人公は、とある出来事がきっかけで強盗殺人事件に巻き込まれる。
なんといつもの癖で思わぬ場所で挨拶をした隣人が強盗殺人犯と疑われており、唯一のアリバイの証言者が主人公だというのである。
だがしかし、主人公にはどうしても真実を口にすることはできない。
なぜなら、主人公はその晩、部下で愛人の女性のアパートを訪れていたからだった。
正直、2020年ともなれば、自業自得、何やってんだいと切り捨てたくもなる展開ではあるが、ふとしたはずみで心の内のエゴイズムが噴き出てしまい、とうとう墓穴を掘ってしまうという主題自体には今もって十分にアクチュアリティがあるのではないか。
それに、これぞ戦後サラリーマンとでも呼びたくなるような小林桂樹の演技にまたリアリティがある。
中でも家族団欒に映画鑑賞での爆笑から一転、自らも警察から厳しく追及される身となった際の情けない姿が強く印象に残った。
一方、結果としてファムファタルとなってしまう愛人役は、先日亡くなったばかりの原知佐子。
キュートでありながら、鋭さも兼ね備えた雰囲気で実に魅力的だ。
ほかに、主人公の夫人役の中北千枝子、強盗殺人犯を疑われる隣人役の織田政雄、その夫人役の菅井きん、主人公の上司役の中村伸郎、刑事役の西村晃、以下、三津田健、佐々木孝丸、平田昭彦、小栗一也、佐田豊、小池朝雄、江原達怡、児玉清、中丸忠雄、一の宮あつ子と昔の役者好きにはたまらない布陣となっている。
その意味でも、観て損のない一本だった。
なお、甘やかで優しいが、そのうちほろ苦く聞こえてくるギターの音色がとても効果的な音楽は池野成によるものだ。
ああ、面白かった!!
そうそう、朝食のシーンで中北千枝子がトーストを食べつつ、昆布の佃煮を食べていて、食卓の上には味噌汁のお椀が置かれているあたり、確かに昔はこんなだったよなあと、そこにもリアリティを感じてしまったのである。
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