☆京都市交響楽団第639回定期演奏会(後半のみ)
指揮:ラルフ・ワイケルト
管弦楽:京都市交響楽団
座席:3階LB-2列2番
(2019年10月11日/京都コンサートホール大ホール)
長生きも芸のうち。
とは、先代の桂文楽に吉井勇が与えた和歌の冒頭の部分で、のちに吉井は元気で長生きもと言葉を付け加えた旨、矢野誠一の著書で目にした記憶があるのだが、いずれにしても、芸術芸能に関する至言ではなかろうか。
そして、京都市交響楽団の第639回定期演奏会のメインプログラム、ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」を指揮するラルフ・ワイケルトの姿を目にしたとたん、その至言のことがすぐに思い起こされた。
ワイケルトは、ブルックナーと関係の深いオーストリアのザンクト・フローリアンの生まれ。
はじめリンツ・ブルックナー音楽院で学び、ウィーン国立音楽大学ではハンス・スワロフスキーに薫陶を受けた。
コンサート、オペラの両面で活躍し、かつてはNHK交響楽団、近年では新国立歌劇場や新日本フィルハーモニー交響楽団への客演と来日回数も少なくない。
ただ、僕自身にとってワイケルトといえば、クラシック音楽を聴き始めた頃にNHKのFMで接したザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団との小ぶりなモーツァルトの印象が強く、当然実演に接するのも今夜の京都市交響楽団の定期演奏会が初めである。
で、1940年の11月というからまもなく79歳になるワイケルトだけれど、まさしく長生きも芸のうち、元気で長生きも芸のうち、と口にしたくなるような指揮ぶりであり音楽づくりだった。
と、言っても、セルジュ・チェリビダッケ流儀の非常にゆったりとしたテンポのブルックナーやロヴロ・フォン・マタチッチ流儀のグロテスクさも厭わぬ荒々しいブルックナーといった、これぞ老巨匠のブルックナー演奏とは、ワイケルトの行き方は違う。
ワイケルトの演奏には、身近な場所にずっとブルックナーの音楽が存在していたことから生まれるぶれのなさ、けれんのなさ、ブルックナーはかくあるべきという自信と矜持をまずもって感じる。
むろん、そこはスワロフスキー門下、テキストの細部まで精緻に目配りを行い、オーケストラの均整を巧みにとることによって、緩急強弱、さらには音色の硬軟の変化を的確に生み出していたことも忘れてはなるまいが。
そして、例えば、金管楽器の強奏部分などでは単にオーケストラ・コンサートでの経験ばかりでなく、ワーグナーをはじめとしたオペラ指揮で培われてきた劇場感覚の片鱗もまた大きく窺われもした。
いずれにしても、ワイケルトの指揮者としての長年の経験が結実した演奏であり、非常に聴き応えがあった。
ホルンの垣本昌芳をはじめ、ソロ・アンサンブルともに京都市交響楽団の面々もワイケルトの解釈のよくそって全体的に精度の高い演奏を繰り広げていたのではないか。
中でも、ティンパニの中山航介の第2楽章での連続音やここぞというところでの鋭い連打が忘れがたい。
適うことならば、ワイケルトと京都市交響楽団の組み合わせでブルックナーのほかの交響曲、特に後期の第7番、第8番、第9番をぜひ聴いてみたい。
ああ、面白かった!!!
そうそう、ワイケルトの著書『指揮者の指名』が水曜社から刊行されて、ホールでも販売されていたのだった。
果たしてどのような内容か。
とても興味深い。
2019年10月12日
この記事へのコメント
コメントを書く