監督:ロベルト・アンドー
昨年、『修道士は沈黙する』が公開されたばかりのイタリアのロベルト・アンドー監督による2013年(2015年日本公開)の作品をDVDで観た。
支持率が低下しその存続すらも危ぶまれている左翼政党の書記長エンリコが、突然失踪する。
この危機的状況に、秘書アンドレアが選んだのはかつて精神病院に入院していたという書記長の双子の兄弟ジョヴァンニを身代わりに立てることだった。
機智に富んだ言葉に堂々とした態度で徐々に支持を集めるジョヴァンニ、一方エンリコはかつての恋人ダニエルが暮らすフランスへと向かい…。
DVDのパッケージには「ヒューマンドラマ!」とあるし、図書館か何かの惹句にはコメディともあった。
確かに、ヒューマンドラマであることにも、コメディであることにも間違いはない。
だけど、それだけでこの作品を観てしまおうとすると、掬いとれないものがあまりにも多いとも思う。
イタリアの「現実」を反映した政治性に社会性もそうだし、文学性、音楽性、ミステリ性…。
なんて言葉を並べるのも陳腐なくらい。
まさしく虚と実、実と虚の駆け引きに満ち満ちた魅力的なドラマであり、魅力的な映画であった。
ブレヒトの引用や過去の映画作品への言及とメタ的仕掛けも豊富で、一例を挙げれば、ヴェルディの歌劇『運命の力』序曲の効果的な使い方には、すぐさまフェデリコ・フェリーニの『そして船は行く』(大好きなんだよね、この作品)を思い出した。
って、アンドー自身、フェリーニの助監督の経験者で、この作品の後半でフェリーニ自身のインタビュー映像が顔を出す。
エンリコとジョヴァンニの一人二役を演じたトニ・セルヴィッロやアンドレア役のヴァレリオ・マスタンドレアはじめ、作品世界によくそった役者陣の演技にも惚れ惚れとした。
ダニエルの娘役の女の子の聡明さもよかったなあ。
これで、尺は1時間半と少し。
語るべきところは語り、省くべきところは省いて過不足ない。
ああ、面白かった!!!
ちなみに、原題は『Viva la liberta』。
自由万歳!
モーツァルトの歌劇『ドン・「ジョヴァンニ」』でも印象的な言葉だ。
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