2019年06月23日

演劇企画<部屋>

☆演劇企画<部屋>(○○企画)

(2019年6月23日17時開演の回/WRIGHT商會三条店2階ギャラリー)


 笑うのが苦手な人
 人ごみが苦手な人
 会社が苦手な人
 学校が苦手な人

 それからあとは、恋が終わった人、恋が始まりそうな人、とか、人を誤解してしまう人、人に誤解されてしまう人、といった感じで毎回違った言葉が続く。
 もう20年近くも前になってしまうのか。
 今も現役で活躍中のaikoがオールナイトニッポンのパーソナリティーを務めていた頃、番組のおしまいにそうやってリスナーに呼び掛けていた。

 笑うのが苦手だったり、人ごみが苦手だったり…。
 もしも順風満帆で何事もハッピー、お気楽C調、この世は春なんて人(でも、そんな「おめでたい人」なんているのだろうか?)は別にして、何かを抱えて日々を生きている人にはきっと大きな慰めとちょっとした勇気を与える言葉ではなかったろうか。
 そして、aikoの歌に耳を傾けているだけでは足りなくて、まだ足りなくて、それでも生きていこうと想う人が、aikoと同じように歌ったり、演じたり、書いたり、描いたりするのだろうとも思う。
 WRIGHT商會のギャラリーで行われた演劇企画<部屋>に出演した4人の女性たちも、きっとそうだろう。

 毎回企画名を変えつつ公演を重ねている「○○企画」だが、今回は4人の女性の演者一人一人がそれぞれの部屋で過ごしている姿を描き出そうという趣向の、その名も<部屋>。
 まさしく4者4様のバラエティに富んだ内容になっていた。

 一室目<八三二>号室は、振付・構成:ゆざわさな、出演:畑迫有紀による「ノクターン」。
 フォルムへの傾斜、完璧主義と、他者との齟齬や自分自身の限界をよく認識する知性、内面の鬱屈や大きな揺れ、激しい動きが絡まって、ときに演技にこわばりというか硬さを若干感じることもある畑迫さんだが(って、役を割り振ってる側の問題も大きいんだけど。自戒をこめて記せば)、この「ノクターン」は彼女のバレエの素養も相まって、表現表出の両面で優れた演技(踊り)を見せていた。
 て、なんだかそれらしい言葉だなあ、もっと率直に言えば、彼女の抱えているものが高い精度を保ってストレートにたたき付けられ投げかけられているようで、非常に心を動かされた。

 続く<一〇二号室>は、雛野あきの朗読による小川未明作の「青い時計台」。
 読み聞かせ風の淡々とした朗読で、演技という意味ではもっとも「仕掛け」は少ないのだけれど、小川未明の作品自体にとても含みがあり、なおかつこの作品を選んだことにも含みがある。
 外から「部屋」を眺める少女さよ子が感じ取っていくことと感じ取ったことが、作品の大きな肝だ。

 三室目の<一〇三号室>は、平野啓一郎訳のオスカー・ワイルドの『サロメ』をもとに私道かぴが脚本化し、稲垣綾菜が出演した「サロメ」。
 3月の○○企画の公演/集団迷子の『星の王子さま』でも存在感を示した稲垣さんだが、ここでも、少女と大人の端境にあるサロメを感情の振れ幅激しく演じ切った。
 ただし、稲垣さんをいわゆる憑依型の演者だと判断するのは大きな間違いのような気がする。
 例えば、ヨカナーンに模された林檎を齧るあたりの演技にもよく表されていたけれど、彼女の特性は自分自身の内側にあるだろう狂気だとか、エロスだとか、自己顕示だとか、そういったあれこれを手の内に入れて反芻した上で改めて演じてみせるところにあるのではないか。
 いずれにしても、強く印象に残った。

 最後は<四〇四号室>で、柴幸男作、にさわまほ出演による「反復かつ連続」。
 ラヴェルのボレロ、とはちょっと違うか、四人の娘と母親をにさわさんが演じ分けていくのだけれど、同時に五人を演じるのではなく、まず一番下の娘から演じていって、次の登場人物のパートを演じる際は前の登場人物のパートは録音されたものとなっている。
 つまり、録音されたパート(二人目、三人目と重ね録りされているということ。音響監修は武田暢輝。ちなみに武田君も私道さんもにさわさんと同様、安住の地のメンバーだ)にあわせて、にさわさんは演技を連続させていくのだ。
 それこそ安住の地という演劇的な「前衛」(アヴァンギャルド)の地で活躍しているにさわさんらしい選択であり、自ら演出を手掛けているだけあってぶれのない演技でもあったのだが、それが頭でっかちに終わっていないのは、彼女の持つフラ(おかしみ)も大きいと感じた。
 そして、それは技のための技に終わらない、柴幸男の本にもよく合っているとも感じた。

 いずれにしても、観てよかったと思える公演だった。
 ああ、面白かった!!!

 そうそう、aikoの呼び掛けの最後の言葉を書き忘れていた。
 あしたもよい日でありますように!
 この公演に出演した4人をはじめ、関わった皆さん、観客の皆さん、そしてこの記事をご覧いただいている皆さん。
 あしたもよい日でありますように!
posted by figarok492na at 20:12| Comment(0) | 観劇記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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