監督:小津安二郎
小津安二郎の遺作である。
結婚の適齢期となった娘(岩下志麻)を嫁に出す父親(笠智衆)…。
という、小津作品ではおなじみの展開。
だけれど、時代の変化は如実に示されている。
もちろん、増村保造(同じ年、田宮二郎主演の『黒の試走車』などが公開される)や岡本喜八(こちらは、『どぶ鼠大作戦』などが公開される)の速射砲のような台詞の応酬に比べれば、確かに緩やかではあるけれど、例えば岩下志麻や佐田啓二、岡田茉莉子、三上真一郎らの会話のテンポはけっこう速い。
それより何より、つい4年前の『彼岸花』では夫の佐分利信が脱ぎ捨てた衣服を妻の田中絹代が粛々と片付けていたのに(途中で放り出すシーンもありはするが)、この『秋刀魚の味』ではそういう描写は排されているし、佐田啓二と岡田茉莉子の夫妻は共働きで、早く帰宅した佐田が厨房に入っていそいそと料理をつくったりもする。
まあ、結婚しないのかとか、子供をこしらえないのかと、今では「アウト」な発言もたびたび登場しはするのだが。
それでも、いや、そうした時代の変化が如実であるからこそ一層、小津安二郎自身の投影とでも呼ぶべき笠智衆演じる初老の男性の孤独や寂寞が際立つ。
その象徴が、みじめさ極まる東野英治郎の「人生はひとりぼっち」という言葉だろう。
50歳の誕生日を独身で迎えた人間にとっては、どうにもぐっと突き刺さる言葉だ。
それにしても、笠智衆、中村伸郎、北竜二のトリオのアンサンブルの素晴らしいこと。
テンポやスタイル、雰囲気は全く違えど、今耳にしているトリオ・ヴァンダラーが演奏したベートーヴェンのピアノ3重奏曲のように見事だ。
ちなみに、35分過ぎにトタン塀(?)に貼ってある映画のポスターは同じ年に公開された小林正樹監督の『切腹』と川頭義郎監督の『かあさん長生きしてね』である。
(前者はすぐにわかったが、後者は調べてわかった)
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