2019年05月19日

ほそゆきのパイロット版21

☆ほそゆきのパイロット版21


×月×日

 帰国して、そろそろひと月近くが経つ。ヨーロッパで過ごしたのと、ちょうど同じくらいの時間。けれど、過ごした時間の長さは同じでも、その質は大きく異なっている。稀薄。本当は重苦しくって仕方がないのに、そんなことなどなんでもないかの如くさらさらと毎日が過ぎ去っていく。あまりにも薄っぺらい。私のように。
 今日学校で平原を見かけた。韓国の兵士みたいな服装をしている。気持ちが悪い。あのこけしみたいな首がギロチンで切り落とされるところを想像して、ますます気持ちが悪くなった。早く消えてしまえ。
 研究室で古屋さんに演劇の公演(劇団あぶらむし)を誘われたが、なんとか断る。知らない劇団のお芝居なんかに二千五百円も払いたくない。帰ってえみちゃんに話をしたら、その劇団は外れやでと即答した。やっぱり断ってよかった。古屋さんの元彼が演出しているそう。腐れ縁。腐った縁。
 夕飯後、ベルンハルトにメールを送る。ディーツェンバウムの『Dの死』(フランス語版)のテキストを送ってもらったことへのお礼。ベルリンのHAUで観た『Dの死』は、とても面白かった。



×月×日

 岩谷大三さんが亡くなられた。梅之助じいちゃん。梅じい。とびうめの春のイベントではお元気そうだったのに。本当に哀しい。岩谷さんやったら『親知らず』(鹿ケ谷浩介監督)やで、とえみちゃんからDVDを貸してもらう。主人公を追い詰める刑事役。映画自体は今一つやけど、岩谷さんがむっちゃええねん、というえみちゃんの言葉通りだった。岩谷さんの目!
 夕方、佳穂姉と北山のアンゲリカでお茶をした。佳穂姉とは半年ぶり。さつまいものソフトクッキー、習ってきたわ、と焼き上がったばかりのクッキーをもらう(帰宅後、みんなで食べる。とても美味しかった)。お土産のオーデコロンを渡したら、ゆっこちゃんの気ぃつかい、と頭を撫でられた。佳穂姉の指は細くて長い。
 息抜き代わりにでもなればと、『Dの死』を少し訳してみたが、全然息抜きにはならなかった。何事も難しい。



×月×日

 日野君に誘われて、岡崎の国立近代美術館まで小川芋銭展を観に行く。いたずら描きのような滑稽で、でもどこかかなしさをためた作品が並ぶ。とても気に入ったので、河童の絵葉書を買った。
 ぽつりぽつりときたので、六盛でスフレを食べた。美味しい。日野君はぽつりぽつりとしゃべる。研究のこととか、地元の倉敷のこととか。小川芋銭の絵みたい。
 日野君とは、図書館の前で別れた。
 家に帰って、ずっと河童を眺めている。



×月×日

 古屋さんにまた劇団あぶらむしを誘われる。ベルリンやロンドンでお芝居を観て来たことを話したから、演劇好きと思われてしまったのか。しつこい人は苦手だ。チラシを渡されたが、黄色地に赤で、俺の心の襞を見ろって題名だけが書かれている。裏には、大勢出ます!愉しいよ!面白いよ!泣けるよ!損はしないよ! という!の連打。悪趣味。大勢出るのは本当だろうけど、愉しくないだろうし面白くないだろうし泣けないだろうし、損した気分になると思う。
 余裕がないからと断ったけど、公演日直前にまた何か言ってきそう。しつこい人は苦手だ。
 今日も河童を眺める。
posted by figarok492na at 14:14| Comment(0) | 創作に関して | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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