☆ほそゆきのパイロット版15
そこまで書いたところで、スマホが鳴った。
「ゆっこちゃん、どないしたの」
「さおねえ、ごめんなさい。今、大丈夫」
「大丈夫よ、家に帰ってゆっくりしてたとこ」
「よかった」
雪子が安堵の息を漏らす。
「まだ起きてたの」
ドイツとの時差は七時間だから、日本はもう真夜中の三時過ぎだ。
「う、うん」
という雪子の声に、微かな人のざわめきが重なった。
「今外なん」
「駅にいる」
終バスでも逃してしまったのだろうか。それにしても遅過ぎると、沙織は雪子のことが心配になった。
「大丈夫」
「大丈夫」
また微かなざわめきが聞こえた。
「誰かと一緒なん」
「ううん、違う。一人」
雪子の声がしっかりしているので、沙織は少しほっとする。
「なあ、どないしたん。なんかあったの」
「なんかあったっていうか」
そこで、雪子は一瞬言い淀むと、
「ねえ、さおねえのところに行っていい」
と続けた。
「ドイツに、ゆっこちゃんが来たいんやったら来てもええけど、いつ」
「今から」
「今から、それじゃあ、もしかして関空行きのバス待ってんの」
だから、雪子はこんな遅い時間に京都駅にいるのか。
「ううん、違う」
「違うって、駅なんやろ」
「そう」
「駅って、まさか、えっ、ほんまに」
「ほんま、今ケルンの駅に着いたとこ」
「ゆっこちゃん、あんたは」
それだけ言って、沙織は絶句した。
2019年05月05日
この記事へのコメント
コメントを書く