☆アンサンブル・ディアーロギ(兵庫県立芸術文化センター 古楽の愉しみ)
出演:クリスティーナ・エスクラペス(フォルテピアノ)
ジョセプ・ドメネク(オーボエ)
ロレンツォ・コッポラ(クラリネット)
ピエール=アントワーヌ・トレンブレイ(ホルン)
ハビエル・ザフラ(バスーン)
座席:1階RA列1番
(2019年1月19日14時開演/兵庫県立芸術文化センター小ホール)
犬塚弘は健在とはいえ、ほかのメンバーが全て旅立ってしまったのであえてこう書く。
昔ハナ肇とクレージーキャッツというジャズ・バンドがいた。
ザ・ピーナッツという女性デュオもいた。
そんな彼彼女らが縦横無尽に活躍したテレビの黄金時代を代表するバラエティ番組が『シャボン玉ホリデー』だ。
残念ながらその全盛期には間に合わなかったが、残された数少ない録画に接しても、その笑いが計算され尽くしたものであり、(アフレコの録音録画であれ)彼彼女らの音楽性の高さ、のりのよさに裏打ちされたものであることがわかる。
その後、テレビのバラエティ番組は社会的状況の変化にあわせ、プラス面ではアクシデント性とさらなる軽快さ、マイナス面では粗製乱造に流れていくのだけれど、それはまた別の話。
今日、アンサンブル・ディアーロギのエンターテイメント性にも満ち満ちた演奏に触れて、僕はふと『シャボン玉ホリデー』のことを思い出した。
と、言っても、あなたハナ肇とクレージーキャッツにザ・ピーナッツはジャズ畑の人たち、こなたアンサンブル・ディアーロギはクラシック畑、それもピリオド畑の人たちではあるが。
それでも、道化師風の化粧を施した公演プログラムの表紙のアンサンブル・ディアーロギの面々の写真を目にするだけで、何かやってくれそうな気がするもの。
まずは、お客さんに顔を向けた形で舞台中央に置かれたフォルテピアノを囲むように、お客さんから見て左側前にオーボエ、後ろにバスーン、右側前にクラリネット、後ろにホルンという陣構えで一曲目のモーツァルトのオーボエ、クラリネット、ホルン、バスーンとピアノのための5重奏曲変ホ長調K.452が演奏されたが、いやあこれはもう愉悦感に満ちあふれたというか、幕が開いてから閉まるまで、全篇巧みにたくまれたウェルメイドプレイをとびきりの役者たちで観ているかのような愉しさだった。
続いては、エスクラペスのフォルテピアノ・ソロによる同じくモーツァルトのロンドヘ長調K.494。
一音一音が丹念に演奏されつつも、澱むことはない。
フォルテピアノという楽器の美質がよく表されていた。
三曲目は、ホルンのトレンブレイ編曲による同じくモーツァルトのピアノ協奏曲第22番から第2楽章の5重奏版。
ここでもアンサンブル・ディアーロギは精度の高いアンサンブルを聴かせていた。
それとともに、モーツァルトの純器楽曲がオペラと密接な関係にあることも、実際の音という形でよく示されていたのではないか。
休憩を挟んだ後半、アンサンブル・ディアーロギは、「音楽に内在するすべての情感を明らかにするためにメンバーは全員ピリオド楽器で演奏し、音楽言語の主要な手がかりを聴衆に披露する」という公演プログラムの説明通りの本領をさらに発揮する。
後半1曲目のモーツァルトのクラリネットとピアノのためのソナタK.304/300C(原曲はヴァイオリンとピアノのためのソナタホ短調)は、コッポラの、それも日本語の前口上から。
クラリネット・ダモーレの説明を兼ねて、同じくモーツァルトのクラリネット協奏曲のさわりの部分を、それも前へ後ろへ右へ左へと身体を動かしながら披露。
間を置かず始まったソナタのほうはといえば、コッポラの腕っこきぶりに舌を巻く。
エスクラペスのフォルテピアノもそれに伍して、全く間然としない。
それにしても、コッポラの恋に焦がれるような切ない表情!
そりゃ楽器自体、クラリネット・ダモーレだもんね。
(なお、エスクラペスの楽譜を捲っていたのは、バスーンのザハフ。佇まいがちょっとおかしい)
トリは、モーツァルトと同じ編成で作曲された変ホ長調の5重奏曲作品番号16。
と、その前にまたもコッポラの前口上。
古典派音楽における表現の三つの形式をご高覧あれとばかり、音楽にあわせて演技までして見せる。
その喜劇役者っぷり。
植木等にも引けを取らない?
もちろん、演奏のほうは上々吉。
編成調性ともに同じということで、当然モーツァルトの作品が意識されていることは間違いないだろうけれど、そこはベートーヴェン。
大人しく古典派の枠内にとどまっていられない衝動というか、シンフォニックで硬質な響きというか、彼の音楽の持つ特徴がそこここから聴き取れた。
盛大な拍手に応えたアンコールはモーツァルトの5重奏曲の第3楽章。
ただし、「オペラの好きな私たちは、一人の魅力的な女性とそんな彼女=エスクラペスに恋した男四人という設定で演奏します」という趣旨のコッポラの宣言したように、木管楽器の四人は身体や表情を豊かに動かしながらアンコールを吹き切った。
言うまでもないことだけど、だからと言って演奏の質が落ちることなんて全くない。
というか、はじめの演奏のときのドメネクとコッポラの強めの掛け合いを観れば、このアンコールははなからあった裏設定の「解説」篇であり、アンサンブル・ディアーロギというアンサンブルの志向嗜好思考の演奏演技によるマニフェストとしか僕には思えなかった。
エスクラベスやコッポラ、ドメネクに加え、低音部を支えるザハフ、そしてナチュラル・ホルンのトレンブレイ!
知と理と情と技に裏打ちされているからこその、彼女彼らの表現を存分に愉しませてもらった。
ああ、面白かった!!!
ちなみに、ディアーロギ(DIALOGHI)はダイアローグ/対話、問答、台詞…。
そうそう、公演プログラムに「アンサンブル・ディアーロギの皆さんにクエスチョン!」というコーナーがあるんだけど、そのQ7の「自分を動物にたとえると?」に対し、ザフラはオオカミ、ドメネクはライオン答えているが、エスクラペスはネコ、コッポラとトレンブレイはたぶんネコ、との回答。
なあんだ、やっぱり!!
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