☆平成30年度 京都市立芸術大学大学院音楽研究科 修士課程
修士演奏T
独唱:禅定由理(ソプラノ)
伴奏:生熊茜(ピアノ)
(2019年1月16日19時から/京都市立芸術大学講堂)
Prima la Musica,Poi le Parole
まずは音楽、お次は言葉
とは、オランダ総督夫妻のための祝宴にあわせてヨーゼフU世が作曲をサリエリとモーツァルトに依頼した音楽劇のうち、サリエリが作曲したオペラ・ブッファの題名であり、のちにリヒャルト・シュトラウスが歌劇『カプリッチョ』の下敷きにした言葉でもあるのだけれど、京都市立芸術大学大学院音楽研究科の修士演奏T、禅定由理の歌唱を聴いているうちにふとその言葉を思い出した。
と、こう記すと、禅定さんの歌唱が言葉なんて知ったことか、歌ってものは歌ってなんぼ、声まずありきのもの、と早とちりする向きがいるかもしれないが、もちろんそういうことじゃない。
修士演奏のための冊子の「はじめに」で禅定さん自身が記しているように、林光の四つの夕暮の歌、マスネのエレジーと歌劇『ル・シッド』より「泣け、泣け、わが瞳よ」、ワーグナーのヴェーゼンドンク歌曲集と歌劇『ローエングリン』より「ただ一人もの悲しい日々に」と並べたプログラムは、人生においての「夜」、「孤独」そして「夢」をテーマに精緻に組まれたものであるし、中でも四つの夕暮の歌の2(誰があかりを消すのだろう)や4(死者のむかえる夜のために)、そしてワーグナーのヴェーゼンドンク歌曲集や『ローエングリン』における表出表現の強さは、深いテキストの読み込みによるものでもあるだろう。
ただ、そうした表出表現やプログラミングの背景というか、基礎、根底には、禅定さんの歌唱、歌声の特性魅力があることもやはり否めまい。
事実、今回のプログラムは彼女の伸びがあってリリカルで清澄な声質を十全に発揮させるために適切な内容だったと思う。
(禅定さんの特性魅力については、2017年12月22日に京都市立京都堀川音楽高等学校音楽ホールで開催されたクリスマスチャリティーコンサート『親子で楽しむオペラの世界』で歌った、モーツァルトの歌劇『ドン・ジョヴァンニ』の二重唱でも感じたことだ)
いずれにしても、禅定さんの今後の研鑽と活躍が愉しみだ。
特に、彼女が歌うシューベルトの『夜と夢』やリヒャルト・シュトラウスの4つの最後の歌を聴いてみたい。
なお、生熊茜は禅定さんの歌唱に副って抒情性をためた伴奏。
『ローエングリン』のアリアでの、第1幕への前奏曲にも登場する聖杯(ローエングリン)の旋律が強く印象に残った。
2019年01月16日
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