2018年07月07日

笑の才覚 京都コントレックスVol.1

☆アガリスクエンターテイメントPresent
 全国コントレックス《京都公演》
 京都コントレックスVol.1

(2018年7月7日17時開演の回/スペースイサン)


 色川武大の『なつかしい芸人』<新潮文庫>の[ロッパ・森繁・タモリ]の章に、色川さんと若き日のタモリが夜を徹して語り合った際、タモリが森繁久彌の役者・芸人としての生き方に関して感嘆していたことが詳しく記されている。
 タモリ曰く、
「森繁さんはすごいですよ。あの人はほかの役者とちがう。実にしのぎがうまいです」。
 どういうことかといえば、森繁久彌は他の役者と違って自分の座を揺るがすようなライバルが出て来ても遠ざけたり蹴落としたりすることなく、自分にとっていちばん危険な奴を手なずけてしまうというのだ。
 さらに、タモリは言葉を続ける。
「森繁さんはその上を行きますね。山茶花究と三木のり平、自分のまわりでもっとも怖い才能の持主を、逆に引き寄せちゃう」
 それに、色川さんもこう受ける。
>(森繁久彌は)一緒に芝居に出て、絶えず山茶花やのり平の演じ所を作ってやる。つまり手柄を立てさせるのだ。そうして、森繁自身が彼等の手柄を利用して、さりげなく自分の受け場にする。最終的には森繁がいちばん映えるようになっているのである<
 で、今夕の京都コントレックスを観て、ああ、アガリスクエンターテイメントのスタンスってそんな森繁久彌とそっくりだなあとふと思ってしまった。


 今や上がり調子の屁理屈シチュエーションコメディ劇団・アガリスクエンターテイメントがこれぞと思う劇団集団と共にコントの場を分かち合うコントレックスだけれど、今回はホームグラウンドの東京のほか、ここ京都や名古屋でも開催される。
 あいにく降り続く雨の悪天候のゆえ、昨日の回は残念ながら公開ゲネプロといった形となってしまったものの、今日は無事決行。
 足元が悪いにも関わらず、大勢のお客さんが集まっていた。
 もちろん、『ナイゲン(全国版)』(2015年10月10日、元・立誠小学校音楽室)以来の俄かアガリスクエンターテイメント・ファンの当方が足を運んだことは言うまでもない。


 開演10分前に前座として登場したのは、丸山交通公園(MCも兼ねる)。
 企画に合わせた前説を行いつつも、ワンマンショーと通じる毒を仕掛けていた。
『椿三十郎』への言及が嬉しかったなあ!


 さて、ここからが本番。
 いっとう最初は、笑の内閣(高間響上皇作・演出。さらには出演)で、『史上最大の高プロ』、『対案を出せ』、『現代口語AV』、『ひびちゃん、ごなちゃんのアフタートーク』のコント三本。
 名古屋があるのであえて詳しいことは書かないが、時事的演劇的な題材に下ネタも辞さないくすぐりはいつもの如き笑の内閣流だ。
 ぐだった感じの緩い演技も内容にあっている。
 なんといっても久々に接するごなえことピンク地底人2号の曲者ぶりがいい。
 また、HIROFUMI、しらとりまな(先日てまりを観ていたこともあってだが、彼女にはシューマンが似合う)も熱演健闘。


 続いては、夕暮れ社.lab(村上慎太郎作・演出)の『まごうことなき予言者』、『ないものねだり』、『かなり前の8月31日の』のコント三本。
 夕暮れ社 弱男ユニットの村上君らと若い演者さんによるユニットで、これが向井咲江だったら、稲森明日香だったら、小林欣也だったらとついつい思ってしまったというか、正直演者さんの力が本にまだ追いついてない印象を持ってしまったりもしたのだけれど、公演パンフの「サッカーのU-23みたいなイメージ」で若い人たちに演技の場所を与えるいう意味では大いに効果を上げていたのではないか。
 メガネをさがしまくる女性の演者さんのキュートさや、キスか壺かと迫りまくる男性の演者さんの必死さなど彼女彼らの努力を讃えたい。
 それにしても、南志穂はいい演者になったなあ。
(ほかに、岡本昇也、山根悠、吉田香月、わっしょい、の出演)


 三団体目は、THE GO AND MO’S。
 かつてベトナムからの笑い声でならした黒川猛の登場である。
 その黒川(あえて敬称略。敬意を表するにはそれこそが相応しい)はおめず臆さずGOMO流を貫いた。
 まあ、会場のスペースイサンは黒川さんのフランチャイズといっても過言ではないからね。
 機智に富んだ発想が活きた漫談『サイボーグ』、どこかで聴いたようなNov.16の軽快なメロディと歌にあわせて踊る『体操のお兄さん』、身体を張りまくった必死のぱっちのコント『検査』、駄目押しの『体操のお兄さん〜ファイナル』と、この俺を見よ!! とばかり果敢に攻めを繰り返す黒川の姿に大いに笑いながら、強く心を動かされもした。
 そうそう、丸井重樹の存在も忘れちゃいけないんだGOMO’Sは!


 四団体目はユニット美人×ソノノチによるユニット「ビジノチズム」で、『さよならアリアドネの絲をギュッとね!』。
 ユニット美人のいききった乗りのよさやソノノチのファンタジックで静謐な雰囲気を基調にしながら、今回の企画や内輪受けを逆手にとったセルフパロディを仕掛けることで、大きな笑いを生んでいた。
 黒木陽子の存在感は言うまでもないが、引きのよさというか(今から15年ほど前のコックピットなど押せ押せな感じがちょっと苦手だった)紙本明子の落ち着き、大人な感じにも好感を抱く。
 ソノノチの中谷和代、藤原美保もそれによく伍して同じ熱量の作品世界に馴染んでいた。


 と、ここまででもう盛りだくさん。
 なのだけれど、トリのアガリスクエンターテイメントの『切ない恋』(冨坂友作・演出)はやっぱり待ってましたと声をかけたくなるような面白さ。
 格の違いを十分に感じさせる内容となっていた。
 まずもって、例えばチェーホフの『結婚申し込み』や『熊』のような一幕ファルスの規矩に則りつつ、そこに屁理屈シチュエーションコメディ劇団と名乗るだけの「棘」をも仕込んだストーリー展開。
 かてて加えて、劇団のピックアップメンバーである鹿島ゆきこ、熊谷有芳、甲田守、津和野諒、前田友里子、矢吹ジャンプという役者陣の演技が達者だ。
(京都勢はあえての部分もあるけれど、概して役を演じるのではなく、まずもって演者自身が前面に出て来ていた。アガリスクの面々とは非常に対照的である)
 結果、じわじわがんがんと笑いの波が押し寄せた。
 つまるところ、京都勢に演じる所見せ場を存分に与えつつ、最後はアガリスクエンターテイメントが映えるような構成。
 まさしく、森繁流のしのぎではないか。


 と、こう記すと、まるで冨坂さんをはじめアガリスクエンターテイメントのメンバーが世知に富んで小賢しい人間のように思う向きもあるかもしれないが、僕はそうとは考えない。
 むろん、表現者なのだから人並みの上昇志向や自己顕示欲はあるだろう。
 ただ、彼彼女らの公演作品に接するかぎり、いわゆる演劇界における政治的計算を第一義にするような集団とは到底思えないことも事実だ。
 というか、世過ぎ身過ぎの面ではどちらかといえば正直に過ぎる部分もあるような気がしてならない。
 塩原俊之の休団に続く沈ゆうこの退団は残念でならないが(二人とも好きな役者さんなんだ!いずれもその決断に驚きはなかったけれど)、集団が生み出す無意識の善意と悪意も描いてきた劇団だけに、無理な拡大などはからず、精度の高い作品とアンサンブルをこれからも保ち続けて欲しいと切に願う。


 いずれにしても、笑いに笑った公演でした。
 ああ、面白かった!!!!


 そうだ、やっぱり2時間強の上演時間は生理的に辛い。
 もうちょっと刈り込んでもらうか、小休止を挟んでもらうと助かった……。
posted by figarok492na at 23:34| Comment(0) | 観劇記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。