☆『ほそゆき』パイロット版6
六
急に寒気がしたので、佳穂は目を醒ました。九月に入って朝方は特に気温が下がってきたから、用心をして厚手のタオルケットをかけて寝たのだが、どうやらそれだけでは足りなかったらしい。枕元に置いたスマホを確認すると、まだ六時過ぎだ。
「あんた、なんしてんの」
佳穂は上半身を起こすと、腹這いになってスマホをいじっている隣の布団の優の後頭部を軽くはたいた。
「あいたたたっ、何すんのや」
優が左手で後頭部を擦りながら言った。
「あんたこそ何してんの」
「何て、今日の集合場所の」
「そやない。なんでエアコンなんか入れんのよ」
佳穂は優の手元にあったリモコンを取り上げて、エアコンの電源を切った。
「だって、まだ暑いやんか」
「どこが暑いん。全然暑ないやないの」
「それはまあ、前ほどには暑くはないかもしれんけども。けどもやなあ、僕にはちょっとだけ暑いような気がしたんやからしゃあないやんか」
仰向けになった優が、ぼそぼそとした声で言った。
「ほんま」
小さく舌打ちをして、佳穂は再び横になった。
「あれ、起きへんの」
「起きひんよ。あんたおじいちゃんか」
「おじいちゃんではないけど、おっさんではあるなあ」
あはは、と桂枝雀のように優はわざとらしい笑い方をした。
「あははやないわ」
「佳穂ちゃん、今日ってお菓子の日やんなあ」
「そや、タルトタタンを教えてもらうことになってんの」
「僕なんか、ヤルトタタンやなあ」
「あほが」
佳穂は再び上半身を起こすと、優の禿げ上がった額をぱんと思い切りはたいた。
2017年08月15日
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