☆第30回同志社女子大学音楽学科オペラクラス公演
モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』
指揮:森香織
演出:井上敏典
管弦楽:同志社女子大学音楽学科管弦楽団
(2017年2月18日14時開演/同志社女子大学新島記念講堂)
昨年に続いて、今年も同志社女子大学音楽学科オペラクラスによるモーツァルトの歌劇『フィガロの結婚』の上演を観聴きした。
30回目となる今回の指揮は、森香織。
当初、関谷弘志の指揮とアナウンスされていたが、開演前に演出の井上先生に伺ったところ、授業や他のコンサートとの兼ね合いで森さんに変更することになったとのこと。
吉本新喜劇や月亭八斗さん月亭八織さんとも共同作業を重ねている関谷さんがどんなブッファを生み出したか気になるところだけれど、これはまた別の機会を心待ちにしたい。
(余談だが、国際交流基金のケルン日本文化会館の業務実習生として当方がケルンに滞在していた頃、井上先生もケルン音大で学ばれていた。実は当時からそのことを知っていて、一度ご挨拶でもできればと思いつつ、結局機会を逸してしまった。今日、20年越しにその念願が叶えられた)
森さんは大阪音大の指揮専攻科を修了後、ウィーン国立音大、さらにはイタリアのキジアーナ音楽院に留学し、名匠ジャンルイジ・ジェルメッティの下でオペラ指揮についても学んでいる。
京都フィル室内合奏団やアマチュア・オーケストラのコンサートにオペラなど、関西各地で活動中だ。
同志社がらみでは、確か同志社交響楽団OBによるアマチュア室内オーケストラ、カンマーフィルハーモニー京都の指揮者を務めているのではなかったか。
森さん自身の音楽解釈に加え、オペラ慣れしていない学生によるオーケストラが相手ということもあって、昨日聴いた鈴木秀美指揮京都市交響楽団のようなピリオドピリオドした演奏とは全く異なってはいたが、快活でありながらもしなやかさとたおやかさを兼ね備えた音楽づくりが試みられていた。
特に、要所要所での弦楽器の滑らかな動きが印象に残った。
なお、昨年は指揮の瀬山智博が弾き振りしたチェンバロは、京谷政樹が担当。
機智に富んだ伴奏を聴かせた。
(昨年も通奏低音はチェンバロだけだったかな? チェロが加わっていたような気がするんだけど)
で、女性の独唱者は4年次生から選ばれる。
まんべんなく学生さんを割り振らなければならないということで、声量歌唱力などどうしてももどかしさを感じる場面もなくはなかったが、それでも声質容姿は各々登場人物にぴったりで適材適所と呼べるキャスティングだった思う。
中でも、それぞれの役回りの重要なアリアを受け持った伯爵夫人の百合純香、スザンナの鄭美來、マルチェリーナの藤居知佳子(第1、第2幕の田中由衣も艶やかな声の持ち主だった)は聴き応えのある歌唱を披歴していた。
一方、男性の独唱者は教授の井原秀人(フィガロ)、講師の青木耕平(アルマヴィーヴァ伯爵)をはじめ、雁木悟(ドン・バルトロ)、孫勇太(ドン・クルツィオ)、佐藤彰宏(アントニオ)のベテラン勢が演じ、学生さんたちを巧みにリードした。
そんな中、異彩を放っていたのは、ドン・バジリオを演じた谷浩一郎。
ストレート・プレイだったら佐野史郎、柄本明、小日向文世あたりが適役のドン・バジリオの狂気を谷さんは激しく表現してまさしく「中村仲蔵」の趣きがあり、この人のミーメやローゲを聴いてみたくなった。
(上記のストレート・プレイだけど、ドン・クルツィオは三谷昇!)
井上先生の演出は、昨年と同じく歌い手たちの歌い易さも考慮したものだったが、第3幕の婚礼の場面などの群衆のまとまりのよさに改めて感心した。
などと、それらしいことをくどくど書き連ねてきたけど、上演が終わってカーテンコールとなってから出演者ばかりかスタッフ陣も加わって第4幕フィナーレ(伯爵が謝ったあと)を歌っているのを観聴きしていると、ああ、この手造り感はやっぱりいいなと強く心を動かされたのだった。
むろん、それで難しいことはどうでもいいとはならなくて、上述したような日本の音楽大学におけるピリオド・スタイルの指導の問題とか、「音楽劇」としての演技の問題とか、どうしても考えざるをえないのだけれど、集団で一から何かを造り出すこうした経験は様々な課題に今後向き合う際に、必ず大きな糧になるとも思う。
いずれにしても、この公演に関わった卒業生学生の皆さんのさらなる研鑚と活躍を心より祈願したい。
ああ、面白かった!!
2017年02月18日
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