2016年10月23日

喜っ先の間合いでの笑負 太遊のまつり3

☆にっぽんばし道楽 落語ライブvol.5『太遊のまつり3』

 出演:月亭太遊さん、桂恩狸さん、月亭遊真さん、B・プルートさん、NGさん
(2016年10月22日19時開演/にっぽんばし道楽)

 皮を斬らせて肉を斬れ、肉を斬らせて骨を斬れ、骨を斬らせて髄を斬れ、という柳生流の極意に適い、切先と肉体との間の距離、いわゆる宮本武蔵のいう太刀先の見切りを心得た文章の達人と誉めそやしつつ、そんな小林秀雄に対してあえて肉を斬らせて皮を斬り、骨を斬らせて肉を斬り、髄を斬らせて骨を斬る覚悟で我流の勝負に挑んだのは花田清輝だが…。
 なんて、いったいなんのこっちゃらと訝るむきはご容赦のほど。
 昨日、大阪まで足を運ぶ直前まで二十年近くの親友と久しぶりに小林秀雄のことなぞ語っていたため、勢い余って筆が滑ってしまった。
 わけじゃない。
 一つには、大阪日本橋はにっぽんばし道楽(中古DVD&CD店1階奥のライブスペース。実にインティメートな趣きの会場だ)で開催された『太遊のまつり3』の月亭太遊さんには、それこそ髄を斬らせて骨を斬る、八方破れ無手勝流もあえて辞さない巌流島に降り立った宮本武蔵もかくやと思わせる緊張感が窺えたからだ。
 むろんそこは必勝ならぬ必笑、寄らば斬るではなく寄らば笑わすの喜っ先の間合いでの笑負ゆえ、お客さんともども和やかな雰囲気を醸し出してもいたが、それでも1回目、2回目の錦湯劇場ではあえて「支配人」に徹した太遊さんの落語家芸人表現者としての本来の意志意欲が強く表されていたことも事実だろう。
(冒頭の部分は、『花田清輝評論集』<岩波文庫>所収の「太刀先の見切り」より。そういえば、太遊さんが敬愛する岡本太郎と花田清輝は親しい関係にあったんだった)

 開演時刻の19時を少し押したあたり、ムード満点の音楽とともにやおら太遊さんが登場。
 今回の会の趣旨を詳しく説いたスタートのトークと、マニフェストとでもいうべき影マイクのラップに続いては、ジャズを流しながらの『寿限無』を語る。
 が、ジャジーな掛け合いが続くかと思いきや、これは冒頭のみで高座を下りた。
 で、仕切り直しののち、稲川淳二風のマクラからネオラクゴの『幻影百貨店(マーヤーデパート』へ。
 細かいくすぐりもそうだけど、やはり全宇宙規模、形而上的な世界へも果敢に突き進む振り幅の広さがこの作品の魅力だと改めて思った。
 と、ここでトイレへどうぞと促す中入りへの影マイクラップあり。
 そう促されちゃしょうがないとおっとり刀でトイレへ向かった。
 さて中入り後は一転、古風な出囃子から太遊さんが高座に上がり、古典の『くっしゃみ講釈』を…。
 漫然とやるわけがない。
 突然、会場の後方からB・プルートさん&NGさんが乱入し、慌てて遊真さんも参戦、さらには司会の桂恩狸さんまで現われラップバトルが勃発するという韻土人じゃない印度人もトランプもびっくりの展開。
 即興感と八百長感丸出しだけれど、そこがまた面白い。
 太遊さんのラッパーぶりはもちろんのこと、太遊さんの無茶なふりに応えたB・プルートさん&NGさん(まさしく「飛び道具」)、遊真さん(ラップに挑戦!)、恩狸さん(××師匠の物真似に挑戦!どんなんかんなあ)の奮闘ぶりも強く印象に残った。
 そして最後は、再びネオラクゴの『ムーンパレス』。
 くすぐりのおかしさは言わずもがな、結構展開の妙も冴えていて大いに笑った。

 ラストのトークで反省の弁も出るなど、全てが意到りて口随うという具合にはいかなかったかもしれないが、ネオラクゴの真髄、太遊さんの心髄が十二分に発揮された会だったことも確かだ。
 ああ、面白かった!!

 ところで、こうやって太遊さんと向き合うお客さんはいる(今後、さらに増えていくはずだ)、恩狸さんや遊真さん、B・プルートさん&NGさんといった介添人もいる。
 あとは、ブレーン。
 ではないな、太遊さん本人が「ブレーン」と呼びたくなるような人なので。
 そうそう、今太遊さんに必要なのは宮本武蔵を巌流島まで運んだ船頭のような存在なのではないか。
 史実はひとまず置くとして、「もちょっとゆっくりいきましょうや」と佐々木小次郎との勝負を決する助言を何気なくしたのも、もしかしたらこの船頭さんだったのかもしれないから。
posted by figarok492na at 08:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 落語・ネオ落語記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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