2016年08月07日

下鴨車窓#14『旅行者』

☆下鴨車窓#14『旅行者』

 脚本・演出:田辺剛
 演出助手:ニノキノコスター
 舞台監督:山中秀一
 舞台美術:川上明子
 照明:葛西健一
(2016年8月7日14時開演の回/伊丹AI・HALL)


 初演(下鴨車窓#2/2006年3月19日、京都芸術センターフリースペース)、再演(同#3/2008年3月22日、精華小劇場)、日韓合同プロジェクト(演出:ウォン・ヨンオ/2010年6月19日、アトリエ劇研)と、都合三度にわたって接してきた田辺剛脚本による『旅行者』が下鴨車窓の#14として上演されるというので迷わず足を運んだのだけれど、これはもう観応えに腹応え胸応え、さらには聴き応えのある充実した舞台に仕上がっていた。

 いついずことは知れぬ荒漠とした土地に、夫(三遊亭はらしょう。今は亡き斎藤晴彦か、お師匠の三遊亭圓丈かといった雰囲気)と妻(大熊ぱんだ)が住んでいる。
 どうやら二人の仲は、あまり芳しいものではないらしい。
 そんな二人のもとに、夫を「おじ」と呼ぶ三人の姉妹(大沢めぐみ、たかはしまな、今井美佐穂)がやって来て…。

 といった具合に物語は進んでいくのだが、はっきりと上演が始まる前の大熊ぱんだの表情仕種から、ああこれは「当たり」だなと強く確信がいった。
 下鴨車窓にとっては再再演となる今回の『旅行者』は、田辺剛という演劇人、ばかりでなく一個の人間のこの間の積み重ね、変化変容が如実に示された内容となっている。
 もちろん、初演再演の際も魅力的で真摯な演者陣が揃っていたこともあり、いずれも好感の持てる公演にはなっていたのだけれど、田辺さんの演出面での課題に演者間の技量の差が相俟って、テキストに対する手探り感が多々観受けられたし、表現がシリアスに傾くなど作品の持つ主題(テーマとモティーフ。すでに初演と再演の際の観劇記録で述べたので、ここでは繰り返さない)が前面に押し出され過ぎるきらいがなくもなかった。
 ところが今回は、例えば妻と夫の弟子(松原佑次)の関係をストレートに示すことによって、夫の情けなさやおかかなしさを浮き彫りにする等、登場人物個々の感情や意識、登場人物感の齟齬や距離を明晰に、なおかつ細やかに描こうとする努力が重ねられていた。
 また、弁護士(F.ジャパン。美声といでたちもあって、喪黒福造=先日亡くなった大平透のことをすぐに思い起こす)をはじめ、個々の演技の滑稽味を増すことによって、テキストそのものの持つ喜劇性が一層的確に再現されてもいた。
 結果、主題がドラマに自然に入り込むというのか、まずもって劇を劇として愉しむという、お芝居の妙味をたっぷりと味わうことができた。

 加えて忘れてはならないのは、田辺作品における「声」の重要性を確認できたことである。
 特性のある声質と比較的均整のとれたエロキューションの持ち主が揃っていたことも大きいのだが、緩急の適切なテンポ設定をとることで、モノローグ、ダイアローグともに、テキストの持つ「音楽性」が可視化、ならぬ可聴化されていたことを、僕は今回の公演の大きな成果の一つとして挙げておきたい。

 上述した面々に加え、笠井幽夏子、邁の役者陣は、各々の経験の差やライヴ特有の傷はありつつも、田辺さんの意図をよくくみ取って個々の与えられた役柄を演じ切るとともに、インティメートでバランスのよいアンサンブルを創り出していた。

 AI・HALLの幅広の舞台を巧く活かした川上明子の舞台美術、葛西健一の照明など、作品世界に沿ったスタッフワークが効果的だったことを最後に付け加えておきたい。

 今月20日、21日には、座・高円寺で東京公演が予定されているので、ご都合よろしい方はそちらにもぜひ!
 ああ、面白かった!!
posted by figarok492na at 21:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 観劇記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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