☆同志社女子大学学芸学部音楽学科オーケストラコンサート(2016)
独唱:鄭美來(ソプラノ)、藤居知佳子(アルト)
独奏:森田侑里奈(フルート)、花田佳奈(ピアノ)
指揮:関谷弘志
吹奏楽:同志社女子大学音楽学科ウインドオーケストラ
管弦楽:同志社女子大学音楽学科管弦楽団
解説:椎名亮輔
(2016年7月9日14時開演/同志社女子大学京田辺キャンパス・新島記念講堂)
夕暮れ社 弱男ユニットの公演で出会った藤居知佳子が今年も出演するというので、昨年に続いて同志社女子大学学芸学部音楽学科のオーケストラコンサートに足を運んだ。
会場は、京田辺キャンパスの新島記念講堂。
クラシック音楽専用のコンサートホールとまではいかないが、思った以上に響く会場である。
昨年はウインドオーケストラを関谷弘志、オーケストラを山下一史と、二人の指揮者が振り分けたが、今年はいずれも関谷さんが指揮台に立った。
で、第1部はウインドオーケストラから。
マクベスの『マスク』、コープランドの『アパラチアの春』(コンサートバンド用の抜粋)、ジェイガーの『シンフォニア・ノビリッシマ』、ヤン・ヴァン・デル・ローストの『カンタベリーコラール』、ショスタコーヴィチの祝典序曲(吹奏楽用編曲)の5曲が演奏されていた。
速めのよく鳴る曲−静かで穏やかな感じの曲…が交互に置かれるなど、よく考えられたプログラムだ。
関谷さんは要所急所を押さえた音楽づくりで、ウインドオーケストラの面々もそれによく応えていた。
ライヴ特有の傷に加え、静かな曲のほうでは若干粗さも目立ったが、ここぞというところでの鳴りっぷりはやはり爽快だった。
(そうそう、ジェイガーの曲はなんだか映画かドラマか、いずれにしても安っぽいエンタメ風の曲調で、ちょっとしっくりこない)
第2部では、まさしく劇的なヴェルディの歌劇『ナブッコ』序曲ののち、選抜された学生たちによるオペラ・アリアや協奏曲の一部が披露された。
まず、ソプラノの鄭美來とアルトの藤居知佳子によるオペラ・アリアが2曲。
ちなみに、鄭さんと藤居さんといえば、今年(昨年度)のオペラクラスの『フィガロの結婚』で村娘を歌い合った二人である。
鄭さんが歌ったのは、トマの歌劇『ミニョン』からフィリーヌのアリア『私はティターニア』。
コロラトゥーラの技巧が肝のポロネーズ風のアリアだが、まずもって鄭さんの透明感があって伸びのある声がいい。
すでに何度も繰り返しているように、僕は声の好みのストライクゾーンが極端に狭い人間なのだけれど、鄭さんの軽みのある声質は非常にしっくりくる。
終盤の難所も強く印象に残った。
続いて、藤居さんがドニゼッティの歌劇『ラ・ファヴォリータ』からレオノーラ(タイトルロール)のアリア「私のフェルナンド」を歌った。
メゾソプラノ、アルト、中でも「ベルカント」歌いにとっては十八番とでも呼ぶべきアリアだが、藤居さんは深みのある低音部から澄んだ高音部という広い音域の声質と豊かな声量を駆使して密度の濃い歌唱を生み出していた。
声のコントロールという面でも、この間の研鑚がよく示されており、その点でも非常に感心した。
9月22日のマーラーの交響曲第2番「復活」のソロ(秋山和慶指揮/京都コンサートホール大ホール)など、今後の活躍が本当に愉しみである。
第2部の三人目は、フルートの森田侑里奈。
昨年のコンサートで、モーツァルトのフルートとハープの協奏曲のフルートを吹いた長谷川夕真が、笛ありき笛愉しというか、フルートを吹いているのが愉しくて愉しくて仕方ないという感じのする演奏であったとすれば、こなた森田さんは他者にどう聴かれているか(ばかりか、人にどう見られているか)をしっかり心得た吹き手という感じがした。
その意味でも、楽器の聴かせどころが巧く設けられたライネッケにとって晩年の作品、フルート協奏曲(の第1楽章)は森田さんにぴったりだったのではないか。
最後は、花田佳奈の独奏で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番から第1楽章。
オーケストラが比較的速めのテンポでザッハリヒに進行していくのに対し、花田さんは一音一音を力まず丁寧に、粘らないけれどもリリカルに演奏していた。
揉みおこしのないマッサージ、とでも喩えたらちょっと変かな。
曲によっては、また雰囲気も変わってくるのだろうけれど、こちらも力むことなく聴き終えることができた。
(そんな演奏だったからこそ、かえって花田さんはパンツスタイル、上は燕尾服でもいいし、タートルネックのシャツでもいい、あっ、色は黒を基調、でもいいんじゃないかと思ったりもした)
第3部はオーケストラのメインディッシュ、チャイコフスキーの交響曲第4番。
昨年の感想にも書いたっけ。
関谷さんはアマチュア・オーケストラとも活発に関わっており、関西の指揮者陣ではオーケストラ・ビルダーの一人と目されている。
事実、今日のコンサートでも縦の線の揃え方や、楽器のバランス等で、彼の特質がよく表われていた。
ただ、ショスタコーヴィチの祝典序曲でもちらと感じたことだけれど、このチャイコフスキーのシンフォニーでは関谷さんの表現意欲が強く出ていたのではないか。
比較的ゆったりとしたテンポで進んだ第1楽章に、まずそのことを感じた。
当然、オーケストラの技量についても考えた上での判断でもあったのだろうが、終楽章コーダでの一気呵成の追い込みを聴くと、やはりこの作品の持つ劇性を強調した解釈だったのだと思う。
アンコールは、同じくチャイコフスキーのバレエ音楽『白鳥の湖』第3幕から「チャルダーシュ」。
曲調が途中で変化して、ラストで華々しく盛り上がるこの「チャルダーシュ」に、僕は交響曲の解釈の答え合わせを聴くような気がした。
14時に始まって、17時20分頃終了というから、約3時間半。
解説の椎名さん、そしてスタッフさんを含め、皆さん長丁場本当にお疲れ様でした。
たっぷり愉しむことができました。
ああ、面白かった!
(アンケートにもちょっと記したのだが、3時間半はちょっと長いかなあ。ウインドオーケストラを別にすると、またいろいろ大変だろうし。何かよい解決法はないだろうか)
2016年07月09日
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