☆渦岡鉄道浜鍋線
渦岡鉄道の渦岡駅から浜鍋線に乗ると、電車が走り始めてものの五分も経たないうちに、目の前に海岸風景が拡がってくる。
宇津は浜のくに、宇津は潮のくに。
とは、古の風土記の一節だが、寄せては返す波の動きを目にするに、渦岡という県はまさしく浜のくにであり、潮のくにであると実感する。
浜鍋線は、渦岡から雨龍半島の先端に位置する浜鍋までを結ぶ十六・三キロの単線区間で、一九八〇年代に入ってようやく電化された。
一時は乗客減もあって廃止も検討されたが、映画やテレビドラマのロケ地として観光客も集めるなど、地元自治体の粘り強い取り組みが功を奏し、近年では乗客数も回復傾向にある。
浜鍋線沿線で撮影された映画として真っ先に浮かぶのは、有薗明日香監督のデビュー作『風が吹いたら』。
樋口ひなげしの同名の小説を監督自ら脚色したもので、車窓から見える海の輝きがとても美しかった。
ちなみに、ここでのロケを監督に薦めたのは、主人公の叔父役で出演もしている渦岡出身の笹目敬輔だそう。
浜鍋線沿線といえば、一昨年ちょっとした話題となった、自称忌才・蒲生俊作監督の『くたばりぞこない 七十の春』のラストで、老人軍団が一斉に蜂起するのもここ。
怪優源田源九郎が演じる鼻血垂れが、海は広いな大きいな、お前は馬鹿だな哀れだな、と喚きながら時の首相に突撃するシーンが特に印象深い。
「海はどこまでも繋がっとるんじゃ」
という彼の台詞は、台本にないアドリブというが、浜鍋の浜に降り立ってみると、その言葉が口を突いて出るのも当然と納得した。
確かに、海は広いし大きい。
できることならば、自分の心もそうありたいと思う。
2016年05月26日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック