2016年05月11日

犬神家の末裔 第36回

*犬神家の末裔 第36回

前略
野々村珠世様

 戌神家の事件、月子さんの自死、恒清君逮捕の報に驚愕していた折も折、貴方よりのお手紙届きました。
 もし貴方が書かれたことが全て事実であるとするならば、私の推理は大凡当たっていたこととなります。
 貴方は深くお悩みになっておられることでしょう。
 確かに、罪は罪。罰せられるべきは罰せられるのが当然のことです。
 さりながら、現行の法律のみが正義を体現したものと言い切ることができるでしょうか。誤った法律によって、数知れぬ人々が国賊非国民の汚名を着せられ、獄中において命を奪われたのは、つい数年前までのことではないですか。戸坂潤、三木清、皆しかりです。
 そして、法律によって裁かれ、刑に服することのみが、果たして本当に罪を償うこととなるのでしょうか。
 貴方の懊悩は想像に難くありません。
 けれど、自らの生命を差し出した月子さん、全てを引き受けた恒清君の意志もまた尊ばれてしかるべきだと私は考えます。
 恒清君はもちろんのこと、貴方への風当たりは今後ますます強いものとなりましょうが、どうか早まることなく。

昭和二十二年十一月
横溝正史
草々
posted by figarok492na at 12:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 犬神家の末裔 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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