2016年05月04日

犬神家の末裔 第33回

*犬神家の末裔 第33回

拝復
野々村珠世様

 目出度さもちう位也おらが春

 新春は迎えど未だ春なお遠き冬の日々、寒さ厳しき折、そちらはなおのこと厳しかろうと上諏訪での生活を思い起こす今日この頃ですが、お元気でお過ごしですか。
 こちらは過日夜暗闇の中を歩いていて、雪解けの泥濘に足を盗られて散々な目にあいました。
 大いなる災難ですが、自業自得の極みでもあります。
 お手紙、心より感謝。転宅等々、諸事繁忙につきお返事年を跨いでしまったこと、平に御容赦ください。
 お手紙によると、信濃毎日の小品を切り抜いて何度か読み返されているとのこと。
 恐縮。勢いに任せて筆を進めたものゆえ、汗顔の到りです。
 感想、なるほどと首肯しております。岸田國士氏の戯曲を想い出したとは、貴方の目、なかなか侮れませんね。
 それにしても、あの小品も彼是一年も前のもので、時の流れの速さを痛感します。
 恒清君より葉書届きました。
 元気そうで何より。満洲はなお寒かろうですが。
 こちらも無理は避けて、執筆に努めます。
 春からは東京と。こちらでの生活が実り多きものとなりますように。
 それでは、時節柄くれぐれもご自愛くださいませ。

昭和十五年一月
横溝正史
敬具

追伸
 恒兵衛翁はさぞ寂しがっておられることでしょう。
posted by figarok492na at 12:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 犬神家の末裔 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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