2016年04月30日

犬神家の末裔 第29回

*犬神家の末裔 第29回

 そういえば、以前朱雀経康が興味深い話をしていた。
 あれは、付き合い始めてしばらく経ってからのことだ。
 経康が大学で日本文学を専攻していることの流れから、話が谷崎潤一郎の『細雪』に跳び、そのまま『犬神家の一族』へと繋がっていったのである。
「早百合さんは、那須の出身でしたよね」
「ええ、大学に入るまではずっと」
「だったら、犬神家の一族を読んだことはありますか」
 早百合は一瞬どきりとしたが、ええと小さく頷き、映画も観ていますと付け加えた。
「実はね、犬神家の一族は、細雪の影響を受けてるんじゃないかと僕は思うんですよ」
「犬神家の一族が細雪の」
「そう。横溝正史が谷崎から大きな影響を受けてたってのは、割と有名な話なんです」
「えっ、そうなんですか」
「ええ。例えば江戸川乱歩なんかは、横溝正史が意識無意識は別にして、谷崎の着想を借りてたって趣旨の言葉を遺してますし、横溝正史自身、小林信彦との対談で谷崎からの影響を語ってますよ。だいたい、谷崎の作品ってサスペンスフルですからね」
 そこで言葉を切ると経康は、
「あっ、ごめんなさい。こういう話をし始めると、僕はついつい止まらなくなってしまうんですよ」
と謝った。
「いえ、そんなことないです。興味深い話なので、ぜひ聴かせてください」
 急に早百合が大きな声を出したので、経康はほんの少し怪訝そうな表情を見せたが、すぐに笑顔に戻ると、
「それじゃあ、遠慮なく」
と、続きを話し始めた。
posted by figarok492na at 10:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 犬神家の末裔 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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