2016年04月27日

犬神家の末裔 第26回

*犬神家の末裔 第26回

「ああ、美味しかった」
 そう言って、沙紀がカプチーノを口に運んだ。
 苦味の効いたエスプレッソを味わいながら、早百合は大きく頷いた。
 本場で五年間修業を積み、さらに東京や横浜で腕を磨いたというだけあって、戸倉のつくるイタリア料理は本格的で実に美味しかった。
 その上で、地産地消というのか、那須菜や白戸鱒など地元那須の食材がふんだんに使用されているのも魅力的だ。
 早百合たちがランチを注文してしばらくすると、観光客らしい若い女性の三人組が入ってきたので、戸倉も由美子もそちらにかかりきりになっている。
「人気あるんだね」
「雑誌とか、あとネットでも取り上げられてるから」
「へえ、そうなんだ」
 三人組の一人が那須菜と川エビのサラダをスマホで撮影しているのが目に入った。
「あれ、フェイスブックとかツイッターにアップするんだよ」
「ふうん」
「やってないよね」
「だって、あんまりそういうの得意じゃないから」
「私、やってるよ。ほら」
 沙紀はジャンパーのポケットからスマホを取り出して器用に操作すると、液晶画面を早百合のほうに向けた。
 ペパーミントパティのイラストをアイコンにした、キサキサキ!というアカウントで、「朝起きるのつらいわ」とか「今から買い物。ついでにランチ」といった短めのツイートが続いている。
「キサキサキ」
「そうだよ」
 小学生の頃、沙紀は少女漫画家になるのが夢だった。
 そんな沙紀のために早百合が付けたペンネームが、キサキサキなのだ。
「ツイッターなんてやってたっけ」
「うん。二年ぐらい前からね」
「そっかあ」
「やんないの」
「やったらどうかって、言われてるんだけどね」
「やったらいいのに。フォローするよ」
「面倒だぺ」
「らっしいなあ」
「まあね」
 早百合は冷水を口に含んだ。
「なんで始めたの」
「いろいろ」
「いろいろ」
「そう、いろいろ」
 沙紀は微妙な笑顔を浮かべた。
 そして、早百合に一言断ると、「ともだちとおしゃべり中」とツイートした。
posted by figarok492na at 12:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 犬神家の末裔 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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