*犬神家の末裔 第25回
「いらっしゃい、早百合ちゃんはほんと久しぶりだねえ。小学校の同窓会以来だよねえ」
由美子が二人分のグラスと、冷水の入ったワインの瓶をテーブルの上に置いた。
「ほんとお久しぶり。てっか、びっくりした」
「さゆっぺ、二人のこと気がつかないんだよ」
「だって、ゆみちゃんが戸倉君とお店やってるなんて」
「まあ、私たちもいろいろあってさあ」
由美子が厨房の戸倉のほうにちらと視線をやった。
「早百合ちゃんは帰省」
「母さんが倒れちゃって」
「ええっ、どうしたのお」
「軽い心筋梗塞だって」
早百合に代わって沙紀が答えた。
「うちの親類が担当で、一応命に別条はないって。今朝病院に行ったら、意識が戻ってた」
「そうかあ、それはほっとするよねえ。心臓、怖いもんねえ」
「そうだ、由美子知ってた、吉富先生のこと」
「亡くなったんでしょ」
「嘘、よっちゃん先生亡くなったの」
「そう。先生、急性の心筋梗塞だったって」
「ああ、よっちゃん先生三年から六年までずっと担任だったのに」
「私は四年から六年、由美子は」
「三年と六年。いい先生だったよねえ」
「うん、私なんかいろいろ庇ってもらったし」
「先生、亡くなってしばらくしてから見つかったんだよねえ」
「三、四日経ってからだって。先生、旦那さんが亡くなってからはずっと一人暮らしだったもんね」
「一人暮らしかあ」
「先生も、子供さんいなかったからねえ」
由美子の言葉に、三人が黙り込んだところで、
「ねえ、何食べる」
という戸倉の陽性なバリトンの声が聞こえてきた。
2016年04月26日
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