2015年12月11日

気持ちのいいチョップ 第1回

☆気持ちのいいチョップ 第1回

*『頼むから叱ってください』
作・演出:丸山交通公園

*1000本チョップ-戯曲に挑戦-『命を弄ぶ男ふたり』
作・岸田國士
演出:気持ちのいいチョップ
(2015年12月11日15時開演の回/アンテナメディア)


 元月面クロワッサンの横山清正と小川晶弘の二人が、気持ちのいいチョップなる演劇企画を立ち上げたというので、その第1回目の公演を観た。
 公演のメインは、これまた元月面クロワッサンの丸山交通公園の作・演出による『頼むから叱ってください』。
 ほかに、1000本チョップ-戯曲に挑戦-と題して、岸田國士の『命を弄ぶ男ふたり』の前半部分が上演された。
(ちなみに、会場のアンテナメディアは、ギャラリー用の長方形のフラットなスペース。その三方を囲むように丸椅子を置いて、真ん中を素舞台として気持ちのいいチョップは使っていた。なお、会場はガラス扉とガラス窓で道路に面しているため、外から中が、中から外がよく見える)

 さて、西園寺桜子をゲストに迎えた『頼むから叱ってください』は、どうやら学生劇団のOBとその後輩による三人芝居、という体で始まる。
 で、明日まで公演が控えていることもあって、あえて詳細は省略するが、心身両面でのアクロバティックな展開に、作者自身や演者自身の切実な想い、さらには演劇的趣向が盛り込まれた笑いの仕掛けの多い作品で、演者陣も奮闘…。
 であることは確かなのだけれど、一方で、打ち上げ花火の打ち上げられる間隔がどこかずれているというか、作品の結構内容が完全に活かされきっていないもどかしさを感じてしまったことも、残念ながら事実だ。
 そしてそれは、単なる技術的な巧拙だけではなく、脚本と実際に演じられたものとの齟齬(より詳しくいえば、丸山君が演者陣に「あてて」書いた部分の演技と、丸山君が自身を仮託した部分における演技の齟齬)も大きく関わっているのではないかと感じられた。
 一例を挙げれば、じゃがまさ横山君。
 中盤、東映プログラムピクチュアもかくやと思わせる演技を、横山君は見せる。
 どうにも不器用で上手く生ききれてなさをためた横山君には、まさしくぴったりの場面であり、いいぞ! じゃがまさ行け! 行ききれ! と僕は内心念じる。
 が、そこで彼は観客の視線を過度に意識してしまう。
 と、いうかどこかで笑いをとろうとすることに意識が向かう。
 むろんそのこと全てを否定するわけではないが、やはりシリアスに徹しきるからこそ、「笑い」の部分がもっとずっと活きてくるのではないか。
 たぶん、丸山君自身が演じるとまた印象も変わってくるはずだが。
(「ここまで演らなきゃ駄目なんだ」、「喜劇を演ろうと思うな」と、最晩年のエノケンこと榎本健一は『最後の伝令』の稽古に立ち会った際、叫んだという)
 他方、一歩脇に回った感のある小川君は、作品の要所を押さえた演技を心掛けていた。
 この作品で一端が示された、小市民的善良さの内面に潜む悪意を、次回以降は存分に発揮してもらいたい。
 西園寺さんは、ある意味損な役回りなのだけれど、ラストで大いに救われている。

 『命を弄ぶ男ふたり』は、正直言って「興行的」には蛇足というほかない。
 いや、彼らが過去の名作戯曲に挑むという企画の意味合いは充分理解できるし、『頼むから叱ってください』と通ずる切実な想いもよく伝わってきたのだが。
 作品に相応しい演出(演技指導)を得ないままの上演であれば、身体性の問題や癖、テキストの読み込みをはじめとした演技的課題がそのまま提示されるだけに終始してしまい、結果二人にとってもお客さんにとっても全く損だ。
 もちろん諸々事情もあるだろうから、すぐに強制することは出来ないが、それならそれで、例えば岸田國士を演じるならどの映画なりなんなりが参考になるといった情報を伝えることも可能だ。
 せっかくの挑戦なのだから、出来得るかぎりの体制で臨んでもらえればと思う。

 横山君、小川君の今後のさらなる飛躍と活躍を心より、本当に心より祈りたい。
posted by figarok492na at 20:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 観劇記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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