☆アガリスクエンターテイメント 第二十一回公演『ナイゲン(全国版)』
脚本・演出:富坂友
文芸助手:淺越岳人、タカハシヨウ
演出助手:鎌田将一朗、熊谷有芳
出演:甲田守、沈ゆうこ、鹿島ゆきこ、金原並央、さいとう篤史、榎並夕起、古屋敷悠、斉藤コータ、津和野諒、細井寿代、淺越岳人、信原久美子、塩原俊之
(2015年10月10日14時半開演の回/元・立誠小学校音楽室)
ここのところ、めっきりお芝居を観に行く回数が減っている。
経済的にもスケジュール的にも厳しい状況だし、去年の今頃から月亭太遊さんをはじめとしたプロの落語家さんたちと親しく接する機会が増えて、表現のあり様について考えが徐々に変化してきたこともある。
そして、それより何より、小説を書くということに一層エネルギーを割くようになったことが大きい。
正直、毎日文章を書くことに悩めば悩むほど、お芝居を観ようという気力が強く失せていくのだ。
だから、演劇関係者を称するのであれば明らかに見逃せず見落とせない公演だとて、不義理不人情を承知で平然とパスしてしまっている。
けれど、この人が関係しているのであれば、この人が薦めるのであればという公演だけは、やはりどうしても足を運ばざるをえない。
あえて名前は出さないけれど、僕にとって信頼できる人が深く関わっている東京の劇団、アガリスクエンターテイメントの京都公演など、その最たるものだろう。
実際、足を運んで大正解だった。
脚本・演出の富坂友の母校でもある(千葉県立)国府台高校。
その国府台高校に実在する、文化祭の発表内容を審議決定するための会議、内容限定会議(通称「ナイゲン」)が、今回の作品の舞台である。
無事全クラスの内容説明も終わり、さああとは決を採るだけとなったところで、突然会議の議事進行役・文化祭実行委員会委員長に職員室からの呼び出しが入る。
そこから会議は一転、ある一つのクラスだけが本来の発表を行えないことになる。
それじゃあ、一体どのクラスを落としてしまうのか…。
と、かれこれ30年近く前、国府台高校と同様に「自律」を建前、ではない校訓校是とする県立高校で生徒会会長を務めた上に、権謀術策渦巻く放送部の部員(うちの学年の男子は、どうにもややこしかった)だった人間としては、とうてい他人事とは思えぬ展開なのだけれど、笑いの仕掛けも豊富であれば、伏線の張り具合も見事というほかなく、そんな感傷なんてどこ吹く風で物語に惹き込まれてしまった。
いや、こう言い切ってしまうと、ちょっと違うな。
惹き込まれて大笑いしながらも、彼彼女らによる詭弁と感情の爆発の乱打戦に、今僕らが直面する出来事を想起して、いろいろと考えてしまったことも事実だ。
特に終盤、ある登場人物の心性が前面に押し出されたこともあり、良い意味での「わだかまり」が残ったことを記しておきたい。
そうそう、密室における議論といえば、先行する諸作品(レジナルド・ローズ&シドニー・ルメットと三谷幸喜、おまけに筒井康隆)をすぐに思い出すのだが、作中、過去の作品からの影響やオリジナリティの問題についても言及されていて、全く隙がないなと感心した。
演者陣も、作品世界によく沿って、個々に与えられたキャラクター、特性を魅力たっぷりに再現しつつ、精度が高く密度の濃いアンサンブルを造り上げていた。
同時に繰り広げられる演技の細かさ丹念さも嬉しいし、言葉と身体のやり取りがすとんすとんと決まるあたりは、上質の室内楽を聴いているような心地良さだった。
いずれにしても、シットコム(シチュエーションコメディ)やウェルメイドプレイとは、巧緻で丁寧な計算の積み重ねであると思い知らされた次第。
ぜひとも多くの方にご覧いただきたい。
ああ、面白かった!
2015年10月10日
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