☆クナッパーツブッシュの『ポピュラー・コンサート』
指揮:ハンス・クナッパーツブッシュ
管弦楽:ウィーン・フィル
(1960年2月、ウィーン/アナログ・ステレオ・セッション録音)
<タワーレコード/DECCA>PROC-1668
【収録曲】チャイコフスキー:バレエ音楽『くるみ割り人形』組曲/シューベルト(ヴェニンガー編曲):軍隊行進曲第1番/ウェーバー(ベルリオーズ編曲):舞踏への勧誘/ニコライ:歌劇『ウィンザーの陽気な女房たち』序曲
ハンス・クナッパーツブッシュがウィーン・フィルを指揮した『ポピュラー・コンサート』といえば、音楽評論家の宇野功芳による熱心な支持もあって、LP時代から親しまれ続けてきたアルバムだ。
その『ポピュラー・コンサート』が、タワーレコードの独自企画からオリジナルの形(カップリングに加えて、ブックレットのデザインも)で再発されるというので、迷わず購入した。
と、こう記すと、大のクナ党のように勘違いする向きもあるかもしれないが、実はクナッパーツブッシュのCDを買うのは、なんとこれが初めてである。
まあ、LP時代には、ウィーン・フィルとのブルックナーの交響曲第7番やミュンヘン・フィルとのベートーヴェンのエロイカ・シンフォニーなど、そこそこマニアックな音源を愛聴してはいたのだけれど。
音楽、読書、演劇、映画、落語等々、狭きところより出でて広きを愉しむのが、僕の性分なのだ。
で、これまでにもあれこれと語られてきたアルバムだけに、もはや何を今さらの感もあるのだが、一言で評するならば回顧の念に満ちた演奏、ということになるか。
むろんそこはクナッパーツブッシュの性質もあって、べったりべとべととウェットに粘りつくことはない。
ただ、全体を通して、物質的にも精神的にも、今そこにあるものではなく、かつてそこにあったものを描きとった演奏であるように強く感じられることも事実だ。
いずれにしても、遅めのテンポの音楽づくりに、独特の節回しというか、間の取り方も加わって、曰く言い難い、おかかなしい情感が生み出されている。
中でも、軍隊行進曲の中間部(2分18秒頃〜)の歌いぶりや、舞踏への勧誘の冒頭部分の静謐さには、ぐっと惹き込まれる。
また、ゆったりと進む『くるみ割り人形』の葦笛の踊りや花のワルツ、靄が徐々に晴れていくかのような『ウィンザーの陽気な女房たち』序曲の出だしも強く印象に残る。
加えて、弦楽器管楽器はもちろんのこと、『くるみ割り人形』の打楽器にいたるまで、ウィーン・フィルの美質がよく発揮されていることも忘れてはなるまい。
ハイビット・ハイサンプリングの効果だろう、音質もだいぶんクリアになっている。
何度聴いても聴き飽きない、クラシック音楽好きには大いにお薦めしたい一枚である。
2015年05月04日
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