2015年02月25日

カルタ遊び その11

 戦後不調の続いていた成瀬巳喜男にとって起死回生の一作となった『めし』(1951年)だが、もともと同じ戦前派の名匠千葉泰樹が監督する予定であったことは古い邦画ファンの間では非常に有名な話である。

 と、唐突にこんなことを書き始めたのも、先日三鷹のシアターQの千葉泰樹特集で、彼の『厩火事』(1956年)を愉しんだからだ。
 『厩火事』は、おなじみ古典落語を八住利雄が脚色し、髪結いのお崎を淡島千景、亭主の八五郎を森繁久彌、仲人を小堀誠が演じるというあたり、どうしても豊田四郎の『夫婦善哉』(1955年)を思い起こすのだけれど、実際千葉泰樹自身そのことを大いに意識しているようで、終盤のお崎と八五郎の掛け合いは江戸版『夫婦善哉』とでも呼びたくなるような、歯切れの良さにのりの良さだ。
 またこの作品では、落語で仲人の口にする孔子と麹町のさる殿様のくだりが劇中劇として再現されているが、特に孔子に扮した森繁に、三木のり平、山茶花究、有島一郎といった連中が馬鹿騒ぎする厩火事のシーンでは千葉泰樹の喜劇性が巧みに示されている。
 加えて、古今亭志ん生がこの噺の冒頭部分を演じているのも、今となっては非常に貴重だろう。
(千葉監督に何度も同じ部分を繰り返させられた志ん生は、敗戦前後の満州で親交を結んだ森繁に「あたしゃ壊れた蓄音器かい」とこぼしたそうだ)
 手堅くまとまっていることが災いしてか、あいにく名作傑作の評価は得られてないが、観て損のない一本であることも確かである。
 中でも落語好きの映画好きには、なべてお薦めしたい。

 それにしても、時期的には逆になってしまうものの、森繁淡島コンビ、千葉泰樹監督による『めし』を、私はぜひ観てみたかった。
posted by figarok492na at 03:58| Comment(0) | TrackBack(0) | カルタ遊び | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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