☆フィルハーモニック・アンサンブル・ウィーン
演奏:フィルハーモニック・アンサンブル・ウィーン
録音:2013年12月16日&17日(デジタル)
会場:ライディング フランツ・リスト・センター(セッション)
<ドイツ・グラモフォン>481 14726
また出たと坊主びっくり貂の皮
とは、剛腕寺社奉行脇坂安薫の再登板に驚愕する生臭坊主たちの姿を揶揄した江戸時代の狂歌だが、新春の日本洋楽界に跳梁跋扈する風潮については、
また来たと客もびっくりウィーンかな
とでも、ついつい読み変えたくなる。
ウィーンなんたろオーケストラ、うんたろアンサンブル・ウィーン…。
はて、ウィーンにそんな常設の団体ってあったかしら、と首を傾げたくなる管弦楽団、室内アンサンブルの類いが来るわ来るわ。
おなじみワルツやオペレッタを流す鳴らす。
そうした中、フィルハーモニック・アンサンブル・ウィーンなんて名前を目にすれば、いやはやまたかと眉に唾をつけたくなるのだけれど、こちらはウィーン・フィルの弦楽器奏者3人とウィーンを中心に活躍するピアニスト、ゴットリーブ・ヴァリッシュ(僅か6歳でウィーン国立音大に入学したとか。Linnレーベルからハイドンとモーツァルトのソナタ、NAXOSレーベルからシューベルトのソナタがリリースされている)によるれっきとしたピアノ4重奏団のようで、現に今年のニューイヤーコンサートの休憩時間にその演奏が放映されたらしい。
で、彼らのデビュー盤となるその名も『フィルハーモニック・アンサンブル・ウィーン』を聴いてみたが、これは想像以上に聴き応えのあるアルバムとなっていた。
まず、モーツァルトのピアノ4重奏曲第1番ト短調とフックスのピアノ4重奏曲第2番ロ短調作品番号75では、バランスがとれてインティメートな感覚にあふれる、このアンサンブルの基礎的な力がよく示されている。
特に、目ならぬ耳新しさは感じられないものの、翳りと憂いをおびて美しい旋律に満ちたフックスの音楽は実に魅力的だ。
また、おなじみヨハンは避けて、リヒャルトの『ばらの騎士』のワルツ(ミヒャエル・ロートの編曲によるワルツ・パラフレーズ)でワルツの歌いぶりの巧さを披歴するあたりもしゃれている。
同じリヒャルト・シュトラウスの単一緩徐楽章のピアノ4重奏曲「恋の歌」(これもワルツ)や、ブラームスのピアノ4重奏曲第1番第4楽章の哀切さ漂うメロディにそれこそ「首の差で」ちょと違うガルデルの『ポル・ウナ・カベーサ(首の差で)』、ドビュッシーの『美しき夕暮れ』というアンコールも嬉しい。
よく歌いよく鳴らしつつも過度にべたつくことのない弦楽器に伍して、ヴァリッシュも退き過ぎず出しゃばり過ぎないピアノで応えていた。
モーツァルトの第3楽章(トラック3)の1分22秒あたりで有名なロンドニ長調風の音型が出てくるところなど、なかなか面白い。
上質なサロン音楽とでも呼ぶべき一枚で、ウィーンの看板に辟易している方々にもぜひお薦めしたい。
2015年02月09日
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