「それじゃあ、房子さんは部屋を出たと言うんだね」
「はい」
「房子さんにはそういうところがあるからなあ」
「そういうところってどういうところよ」
「だって、そりゃ。永井さん。永井さん、永井さん」
「この人なら寝てますよ」
「たぶんお疲れになられたんでしょう」
「なんだかんだ言っても、もう八十過ぎの老人だからなあ」
「おい、何か言ったかい」
「いいえ、何も」
「警部、失礼します。庭のほうを調べましたが、櫟さんと思しき足跡は一切ありませんでした」
「ううん、そうか。それでは、房子さんはどこへ行ったんだろう」
「そういえばあなた、前にも一度こういうことがあったじゃありませんの」
「そうそう、あったなあ。あれは、叛乱事件の前の日のことだった」
「叛乱事件ってなんのこと」
「ニ・二六事件のことだよ。伊勢君、君もあのとき櫟さんのお屋敷にいたんだろう」
「ええ、いましたが。しかし」
「そ、そ、その話を、ぼ、ぼ、ぼくに聞かせていただけませんか」
「それよりも、房子さんの行方を探すことが先じゃないのかね」
「まあ、汚い。テーブルがフケだらけ」
「あっはっは。等々力さん、房子さんなら大丈夫ですよ。ねえ、そうでしょう伊勢さん」
「まあ、そうですね。ねえ、芝山君」
「はあ、実はその、房子さまはですね、すぐそこに」
「えっ!!!!!!!!」
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