なあんてもったいはいらないわけで。
作業を進めていると、どうにもそこから先に進めない状況に陥ることもありまして。
で、息抜き代わりに、原稿用紙2枚分800字の脈絡のない断片を、気が向いたときに即興で書いていこうかと思った次第。
内容のひどさは言うまでもなく。
あくまでも中瀬宏之自身のためのエチュードということでここは一つご勘弁のほど。
ちなみに、『カルタ遊び』というのは以前書き始めて途中で断念した連作掌篇のタイトルをスライドさせたものですので悪しからず。
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『カルタ遊び』は、ストラヴィンスキーが一九三六年に作曲した三場のバレエ音楽であり、ロッシーニの歌劇『セビリャの理髪師』序曲をはじめ、様々な音楽がパロディ的に引用されている。
そこまで記して、木嶋は筆を置いた。
ここから先はCDを聴いてみないことにはわからない。世の中には、CDを聴かずしてCDレビューをものしてみせようとする猛者もいるらしいが、いくら文章書きが仕事とはいえ、クラシック音楽ときたらあいにくこちとらずぶの素人、そんな馬鹿な真似はできるわけがない。
それにしても、このコンスタンチン・コンスタンチノヴィチ・ストロガノフスキーという指揮者ときたらどうだ。乃木大将かボニージャックスのメンバーかと言いたくなるような村夫子然とした面構えではないか。ドベチンスク交響楽団というオーケストラの名前もまたロシアの田舎田舎しているし。
はたして両者はどんな演奏を披歴しているのだろうか。
などと、木嶋はCDのブックレットを睨みつけながら一瞬物想いにふけった。
と、そのときだ。
窓の外から、女の悲鳴が聞えてきた。
「助けて、助けて、斎藤道三よ」
木嶋は、あまりにあまりな言葉ゆえ、思わず手にしたCDブックレットをぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃと丸め捏ねた上で、びりびりびりびりと引き裂いてしまった。
「畜生、何馬鹿なこと言ってやがる。てめえは人間じゃねえやたたっ斬ってやる」
木嶋は座右に置いた胴田貫をさっと手に取ると、やおら戸外へ出ていこう。
としたところで、恐るべし、ほわほわほわほわあと鳴り轟く法螺貝の音。
ああ、そはきっと斎藤道三の軍勢。
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