☆モーツァルト:ピアノ・ソナタ第8番、第10番、第12番、第13番
ピアノ独奏:グレン・グールド
(1965年〜1970年/アナログ・セッション録音)
<SONY/BMG>8697148162
グレン・グールドが弾いたモーツァルトのピアノ・ソナタについては、すでに有名なトルコ行進曲つきのソナタ(第11番)が入ったアルバムについて先日ある程度記しておいたので、ここでは繰り返さない。
モーツァルトにとって数少ない短調のソナタのうち、まだ若い頃に作曲されたイ短調のソナタ(第8番)の、特に第1楽章をグールドがどう演奏するかを確かめたくてこのCDを買ったのだが、いやあやっぱりすごかった。
繰り返しもなしにあっけなく終わってしまう第1楽章など、これがグールドでなかったら、いやグールドであったとしても、「おふざけなさんな!」とお腹立ちになる向きもあるかもしれないが、僕はその乾いて、それでいながら、やたけたでなんでもかでも掻き毟ったり、物をぶつけまくったりしたくなるような感情のどうしようもなさがよく表われたこのグールドの演奏が好きだ。
他に収録された3つのソナタも同様に、毒にも薬にもの薬にはならなくて、毒そのものの演奏なんだけど、こういった音楽の毒と真正面から向き合うことも自分には必要なんじゃないかなと改めて思った。
それにしても、継ぎ接ぎだらけ(ソナタ1曲でも、レコーディングが長期に亘って行われている)にもかかわらず、「生」な感じに圧倒されるのも、グールドの録音の不思議さだ。
ところで、毒とは無縁、よい意味での教科書的なモーツァルトの演奏としては、ブルガリア出身のスヴェトラ・プロティッチ(同志社女子大学で教えていたことがあり、関西フィルの定期で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番の実演に接したこともある)が弾いたピアノ作品集<KING>KICC3527を挙げておきたい。
1991年の没後200年のモーツァルト・イヤーがらみでリリースされたアルバムが、1000円盤で再発されたものである。
こういった演奏があるからこそ、毒はより引き立つのだし、逆に毒があるからこそ基本、ベーシックとなるものの意味もはっきりするのではないか。
2014年04月27日
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