☆マーラー:声楽曲集
独唱:クリスティアン・ゲルハーエル(バリトン)
指揮:ケント・ナガノ
管弦楽:モントリオール交響楽団
(2012年1月/デジタル・ライヴ録音)
<SONY/BMG>88883701332
大地の歌で優れたコンビネーションを発揮した、ドイツ出身のバリトン歌手クリスティアン・ゲルハーエルとケント・ナガノ指揮モントリオール交響楽団による、マーラーの声楽曲集(さすらう若者の歌、亡き子をしのぶ歌、リュッケルトの詩による5つの歌曲)である。
すでにゲルハーエルは、ゲロルト・フーバーのピアノ伴奏でマーラーの声楽曲集を録音していたし、さすらう若者の歌にいたってはハイペリオン・アンサンブルとシェーンベルク編曲の室内アンサンブル伴奏版すら録音しているが、今回のアルバムは、まさしく満を持してというか、ゲルハーエルのマーラー歌唱の現段階での集大成とでも呼ぶべき充実した内容となっている。
上述したハイペリオン・アンサンブルとの若々しい歌声に比べれば、若干声の経年変化は否めないのだけれど、細部までよくコントロールされる歌唱の根幹はそのままに、より表現に厚みと安定感を加えていることも、また確かな事実だろう。
例えば、亡き子をしのぶ歌での悲嘆と諦念、リュッケルトの5つの詩の第1曲「私の歌をのぞき見しないで」の蠱惑的なと言ってもよいような歌いまわし等、ゲルハーエルの成熟ぶりがよく示されているのではないか。
一方、ハレ管弦楽団を指揮した、同じくドイツ出身のバリトン歌手ディートリヒ・ヘンシェルとのマーラーの声楽曲集では、ヘンシェルに合わせて鋭角的な音楽づくりを行っていたケント・ナガノだが、こちらのアルバムでは、ゲルハーエルの歌唱によく沿って柔軟な演奏を繰り広げており、亡き子をしのぶ歌の第2曲「なぜそんなに暗い眼差しか、今にしてよくわかる」でのホルンのソロなど、モントリオール交響楽団もその美質を十全に発揮している。
管弦楽伴奏による男声のマーラーの声楽曲集のファーストチョイスとして、ぜひともお薦めしたい一枚だ。
2013年10月17日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック