2013年03月20日

アルテミス・カルテットのセリオーソとラズモフスキー第1番

☆ベートーヴェン:弦楽4重奏曲第11番「セリオーソ」&第7番「ラズモフスキー第1番」

 演奏:アルテミス・カルテット
(2005年6月&7月/デジタル・セッション録音)
<Virgin>7243 5 45738 2 8


 一気呵成はまだしも、猪突猛進って言葉には、なんとも言えない危うさを感じる。
 例えば、目の前に並ぶ鉄砲隊もなんのその、進め進め、進め一億火の玉だ! と突撃して、ばたばたばたばたと倒れる、信玄亡きあとの武田騎馬軍団のような。
(最近の研究では、長篠の戦いの様相って巷間伝わっているようなものではなかったらしいけど)

 で、そんな武田騎馬軍団を想起させるといえば、最晩年のヘルマン・シェルヘンがスイス・ルガーノのスイス・イタリア語放送管弦楽団を指揮して遺したベートーヴェンの交響曲全曲のライヴ録音。
 速いテンポでぐいぐいと、と言えばよく言い過ぎだろう。
 笛吹くから踊ってくれ!
 軍配挙げるから突撃してくれ!
 てな具合の叱咤激励(唸り声が凄い!)で、あまり技量に秀でていないオーケストラを駆り立てるものだから、破れかぶれのはちゃめちゃやたけた。
 壊滅破滅のゲシュタルト崩壊寸前。
 まあ、その迫力気力には、上っ面だけ整えた中途半端に上手な演奏なんかより、何倍何十倍何百倍も、心にぐっとくるものがあるんだけどね。
 でも、一般向きとはちょと言えない。

 こなたアルテミス・カルテットが演奏した、第11番「セリオーソ」と第7番「ラズモフスキー第1番」の2曲の弦楽4重奏曲がカップリングされたアルバムは、速いテンポで一気呵成という点だけならばシェルヘンの交響曲と共通するものの、音楽への向き合い方で大きく異なっている。
 ように聴こえる。
(だいいち、まずもって4人のメンバーが達者だ)

 速いテンポ、という部分は、いわゆるピリオド・スタイルの影響で、さくさく、さ・す・そという感じ。
 メリハリがよく効いていて、名人上手がテニスのダブルスでずっとラリーを続けているような緊迫感と爽快感を覚える。
 もちろん、先達アルバン・ベルク・カルテット譲りの、細密精緻な楽曲把握も忘れちゃなるまいが、アルバン・ベルク・カルテットのようなアナリーゼアナリーゼした感じではなく、インティメートな雰囲気が勝った音楽づくりを行っている点が、耳なじみの良さにつながっていると思う。

 ほどよい残響で、録音もクリア。
 高邁で深淵な精神性を求める向きにはあまりお薦めできないが、ベートーヴェンの一面、音楽そのものとしての劇性面白さを愉しみたい方には大いにお薦めしたい一枚だ。

 それにしてもこのCD(輸入盤)、リリース後、それほど間を置かずに廃盤になってしまったんだった。
 そういう武田勝頼みたいなことをやっているから(あくまでも思い込み)、EMIレーベルといっしょにワーナー傘下に吸収されてしまうんだ、Virginレーベルは。
posted by figarok492na at 15:19| Comment(0) | TrackBack(0) | CDレビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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