☆ウェーバー:クラリネット協奏曲集
独奏:アントニー・ペイ
管弦楽:エイジ・オブ・エンライトゥンメント管弦楽団
(1987年10月/デジタル・セッション録音)
<Virgin>VC7 90720-2
進化には道理あり。
いわゆる社会ダーウィニズムには、19世紀的な帝国主義臭がふんぷんとして、どうにもこうにも胡散臭さと腹立たしさを覚えるものの、時代に伴った化学技術の進化には、やはりむべなるかなと大いに納得せざるをえぬものがある。
楽器もまたしかり。
社会の変化に歩みを合わせるかのような、19世紀、そして20世紀の楽器の変化は、これまた当為のものであり、実際楽曲演奏両面で大きな進化をもたらした。
でもね、今は今中今は今、と永遠の今日を続けていると、何やら惰性が働いて手垢はつくわ苔は蒸すわ。
おまけに原子力発電所は壊滅的な事故を起こすわ。
事は音楽だって同じ。
オーソドックスといえば聴こえはいいし、確かに超一流の演奏を聴けば、やっぱり王道っていいな、なんて感心感嘆してしまうものの、世の中そんなに超一流ばっかりじゃない。
惰性でお仕事やってます、的な演奏聴くと、もう萎えちゃうんだよね。
で、温故知新じゃないけれど、前世紀の最終盤、作品が作曲された当時の楽器、もしくは復元された楽器=ピリオド楽器を使って、しかもその時代の演奏方法を鑑みながら作品を演奏しようって流れが出来てきた。
つまり、これがピリオド・スタイルってやつ。
今までの演奏ではいまいちわかりにくかった作品のツボや仕掛けがわかってきたし、スピーディーなテンポ設定は清新快活だし。
少なくとも、ピリオド・スタイルの出始めはたまりにたまった塵芥を取り去ったような清々しさを感じたものだ。
今回とり上げる、第1番と第2番の協奏曲にコンチェルティーノ(単一楽章の小協奏曲)を収めたウェーバーのクラリネット協奏曲集のCDも、そんなピリオド楽器とピリオド・スタイルの演奏が「市民権」を得始めた頃に録音された一枚だ。
(なお、これまではアントニー・ペイが吹き振りしたと思っていたが、改めてブックレットを確認すると、ヴァイオリンのロイ・グッドマンがリーダーとメンバー表に記されていた。もしかしたら、オーケストラは彼の弾き振りなんじゃなかろうか)
いっかなピリオド楽器の名奏者アントニー・ペイと、いっかなピリオド楽器の腕扱きを集めたエイジ・オブ・エンライトゥンメント管弦楽団であろうと、ところどころ音程その他、危なっかしい部分はあったりはするんだけど、反面、作品の持つ陽性歌謡性が巧みに再現されているようにも思う。
てか、モダン楽器の整って迫力満点の演奏だと、ときにかまびすしさ、ばかりか安っぽさすら感じるウェーバーのクラリネット協奏曲の伴奏(オーケストレーション)が、適度な華やかさで聴こえるのは、やはりこの演奏の魅力なのではないだろうか。
ロンドンの聖バーナバス教会での録音もほどよい響きで聴きやすく、初期ロマン派好きの方には、ご一聴をお薦めしたいCDである。
2013年03月05日
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