☆シューベルト:ピアノ・ソナタ第16番&第21番
ピアノ:マリア・ジョアン・ピリス
(2011年7月/デジタル・セッション録音)
<ドイツ・グラモフォン>477 8107
以前、1985年に録音された(と、言うことは、もう30年近く前になる)、マリア・ジョアン・ピリスが弾いたシューベルトのピアノ・ソナタ第21番<ERATO>について、「自己の深淵と向き合うということをどこか自家薬籠中のものとしてしまった感すらある」最近のピリスの演奏と異なって、清新でどうこうと好意的に評したことがあった。
で、今回改めてピアノ・ソナタ第21番の新旧二つの録音を聴き比べてみて、自分自身の言葉の浅薄さに反省した次第だ。
いや、確かに1985年の録音の清新な雰囲気、若々しさは魅力ともなっているのだが、新しい録音と比べると、細かな部分(例えば、第2楽章)での表現のちょっとした薄さが気になってしまうのである。
と、言っても、新旧双方で大きな解釈の違いがあるわけではなく、演奏時間も新しい録音のほうが2分程度長くなっただけではあるのだけれど。
けれど、一音一音丁寧に紡ぎ上げていくかのような新しい録音でのピリスの演奏の懐の深さ、幅の広さに僕は強く魅かれる。
上述した言葉を引くならば、自己の深淵と向き合いつつも、そうした状態に溺れることなく、真摯に淡々と音楽を造っている、と評することができるだろうか。
このレビューを記すまでに、約20回ほどこのCDを聴き返したが、何度聴いても聴き飽きない、充実感に満ちた演奏だと思う。
また、カップリングの第16番のソナタも、作品の持つ歌唱性と叙情性、躍動感をよく捉えて過不足がない。
ドイツ・グラモフォンの録音もクリアであり、音楽好きにはぜひともご一聴をお薦めしたい一枚だ。
2013年03月01日
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