☆モーツァルト:序曲集
指揮:ハンス・フォンク
管弦楽:シュターツカペレ・ドレスデン
(1985年7月/デジタル・セッション録音)
<CAPRICCIO>10 070
今からほぼ20年前のケルン滞在中、ケルンWDR(放送)交響楽団のシェフを務めていたのがハンス・フォンクで、彼の指揮するコンサートには何度も足を運んだものだけれど、正直今一つという感は否めなかった。
と、言うのも、細部の詰めよりも、作品の全体像の把握と音楽の波の再現を優先する彼の姿勢が、機能性に富んだケルンWDR交響楽団との間に大きなずれを生んでいたように思ったからだ。
そういえば、同じシーズン中に、前任者のガリ・ベルティーニが特別コンサートの指揮台に立ってがっちりきっちりとオーケストラをコントロールする演奏を行ったことがあって、当代フォンクの指揮の緩さが一層気になったりもしたんだった。
フォンクが指揮した中では、荒削りながら、ピリオド・スタイルというより、フォンクと同じオランダ出身のパウル・ヴァン・ケンペンがベルリン・フィルを指揮した古いモノラル録音をどことなく想起させる、ドラマティックなベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」に満足した程度か。
(このときは、ギル・シャハムが同じベートーヴェンのヴァイオリン・コンチェルトで、とても美しいヴァイオリンの音色を聴かせていた)
当時、ケルンのオペラ(ギュルツェニヒ管弦楽団)のシェフを務めていたのがジェイムズ・コンロンで、フォンクとコンロンの音楽性、持ち味、得手不得手を考えれば、二人の人事はあべこべなんじゃなかろうかと考えたほどである。
その後、フォンクはレナード・スラットキンの後任としてセントルイス交響楽団の音楽監督に就任したが、これといった評判を聴くこともなく(近年、ようやくライヴ録音がまとまった形でリリースされた)、母国オランダのオランダ放送交響楽団とようやく柄に合った録音活動をスタートさせてすぐの2004年に、筋委縮性側索硬化症という難病のため亡くなってしまった。
今回とり上げるCDは、そんなハンス・フォンクが1985年にシュターツカペレ・ドレスデンと録音したモーツァルトの序曲集である。
今手元にあるリナルド・アレッサンドリーニ指揮ノルウェー歌劇場管弦楽団や、アンドレア・マルコン指揮ラ・チェトラといった、いわゆるピリオド・スタイルやピリオド楽器による演奏とは全く対照的な、実にオーソドックスな演奏だ。
メリハリをぐぐっときかせて、激しい音楽づくりを試みるなんてことは全くない。
粘らず快活なテンポの、それでいて音楽の要所急所はきっちり押さえた劇場感覚にあふれた演奏で、とても耳なじみがよい。
当然そこには、シュターツカペレ・ドレスデンというとびきりの劇場オーケストラの存在も忘れてはならないだろうが。
いずれにしても、最晩年のオランダ放送交響楽団とのCDはひとまず置いて、ハンス・フォンクという指揮者の美質特性をよく表わした一枚だと思う。
カプリッチョ・レーベルによる録音も全く古びておらず、落ち着いた気分でモーツァルトの序曲集に親しみたいという方には絶好のCDではないか。
中古とはいえ、これが250円とはやはり安過ぎる。
なお、収録されているのは、『魔法の笛』、『フィガロの結婚』、『アルバのアスカーニョ』、『クレタの王、イドメネオ』、『劇場支配人』、『コジ・ファン・トゥッテ』、『後宮からの逃走』、『にせの女庭師』、『ルーチョ・シッラ』、『皇帝ティトゥスの慈悲』、『ドン・ジョヴァンニ』の、計11の序曲だ。
2013年01月30日
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