監督:黒澤明
原作:シェイクスピア『マクベス』より
脚本:小国英雄、菊島隆三、橋本忍、黒澤明
(2012年8月10日、京都文化博物館フィルムシアター)
ううん、今さら黒澤明の『蜘蛛巣城』の感想もないものだけれど…。
シェイクスピアの『マクベス』を日本の戦国時代に移し変え、心の奥底にある疑心を妻に煽られて分不相応なむらっ気を起こし主君と友人を殺した武将が辿る悲劇を、静と動のコントラストをはっきりとつけながら描き切った作品。
って、まとめてしまうと、なあんか面白くないんだよなあ。
だって、この『蜘蛛巣城』って、表現が強い分、どこか邪劇臭がするんだもん。
いや、それが言い過ぎなら、表現主義的な雰囲気、アヴァンギャルドな雰囲気がするって言い換えてもいいけど。
(そういや、『蜘蛛巣城』には佐々木孝丸も出演してるんだった。余談だけど、佐々木孝丸の娘は千秋実の夫人だから、義理の父子共演ってことになるんだよなあ。特撮物でおなじみ佐々木勝彦は千秋実の息子だから、佐々木孝丸の孫にあたるわけか)
で、そういう部分がまた『蜘蛛巣城』の見どころでもあるんだよね。
主人公の妻役の山田五十鈴の迫真の能面っぷり(いやな血だねえ!)、浪花千栄子のもののけ婆っぷり(なんだこいつの声は!)と特別出演、中村伸郎、宮口精二、木村功の幻の武者っぷり(なんだこいつらの声は!)、そして追い詰められた三船敏郎の狂いっぷり(アロウズが矢って来る 矢ァ!矢ァ!矢ァ!)。
いずれにしても、何度観ても、ぞくぞくがくがくわくわくする一本だ。
ところで、「黒澤明との素晴らしき日々」という副題のある土屋嘉男の『クロサワさーん!』<新潮文庫>の中に、『蜘蛛巣城』のエピソードが記されている。
伝令役の俳優の演技が嘘っぽくて仕方がない、ついては俳優座の養成所の同期だからと推薦した責任をとって、代わりに演じてくれと突然現場に呼び出された土屋さん。
伝令役の俳優の手前、一度は勘弁してくださいと断ったが、そこは「粘りのクロサワ」、根負けした土屋さんは代役を引き受けて…。
あとは、『クロサワさーん!』の「殺意があった」という章をあたって欲しい。
そして、このとき深い屈辱を味わっただろう伝令役が誰かもすぐにわかったのだけれど、その俳優さんが存命で、しかも大好きな人ということもあって記さないでおくことにする。
強いてお知りになりたい方は、『蜘蛛巣城』の冒頭部分にご注意いただければと思う。
【関連する記事】