監督・脚本:新藤兼人
原作:長田新編『原爆の子 広島の少年少女のうったえ』
(2012年7月10日、京都文化博物館フィルムシアター)
もう一つの被爆地長崎市に生まれ、それも小学校、中学校、高校と爆心地近くの学校に通い続け、しかも中学校の修学旅行では広島市を訪れたこともあって、新藤兼人監督の『原爆の子』は、自分にとって全く驚きの対象などではなく、子供の頃から当為のものとして受け止め受け入れてきたことが語られた作品である。
いや、たとえそれが「ドラマ」を意識した設定、結構であるとしても、伊福部昭の詠嘆調の音楽も含めて、『原爆の子』のウェットな雰囲気には、率直に言って、若干違和感を覚えなくもない。
しかしながら、米軍の占領が終わってまだ間もない時期に、被爆地広島の実態、それも被爆による原爆症の恐怖や被爆者の貧困といった広島が抱えた問題を丁寧に描き込んだ新藤監督の明確で強固な姿勢には、やはり心を強く動かされた。
また、扇の要となる乙羽信子をはじめ、滝沢修、宇野重吉、北林谷栄、奈良岡朋子(まだ若い時分だが、この人は本当に巧い)、清水将夫、細川ちか子、山内明、斎藤美和、下元勉、佐々木すみ江、多々良純(桜隊に参加するも、召集のため広島で被爆することはなかった。新藤監督の『さくら隊散る』にも出演している)といった民芸勢のほか、東野英治郎、殿山泰司、小夜福子、原ひさ子(8月6日が誕生日)、柳谷寛、英百合子(呉出身)、寺島雄作らが出演しているが、新藤監督の意図をよく汲んだ演技を行っていると思う。
それにしても、原爆投下直後の表現を観るに、一瞬のうちに多くの生命が焼き尽くされ奪われた広島の情景をCGではなく実写で撮影したいとの新藤監督の強い想いを、改めて思い起こす。
20億円。
悔しいかぎりだ。
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