監督:今井正
原作:近松門左衛門
脚本:橋本忍、新藤兼人
(2012年6月23日、京都文化博物館フィルムシアター)
ときは宝永年間(西暦1700年代初頭)。
参勤交代による一年数ヶ月にわたる江戸在勤を終え、国許因州鳥取へと戻った下級藩士小倉彦九郎(三國連太郎)は、自らの妻お種(有馬稲子)と鼓の師匠宮地(森雅之)との間に不義密通の噂が流れていることを知らされる。
はじめは噂を否定していたお種だったが、諸々の証言もあって疑念を深めた彦九郎の厳しい追及に…。
といった展開を持つ、今井正監督の『夜の鼓』は、近松門左衛門の『堀川波の鼓』を下敷きに、はじめ橋本忍、のちに新藤兼人がシナリオの筆をとった作品で、江戸時代の封建体制のもと、心ならずも不義を働いてしまった妻と、親族たち圧迫の中、ついに妻を殺さざるをえなくなった武士である夫の悲劇が丁寧に描かれている。
と、こう書くと、今井監督が終生密接な関わり合いを持ち続けた革新政党の公式見解のようになってしまうが、実際、東野英治郎や加藤嘉、浜村純といった面々が彦九郎をやいのやいのと責め立てる場面や、終盤彦九郎の妹(日高澄子)がお種に自害を強いる場面など、まさしく封建体制の桎梏、今風に言えば同調圧力がよく表わされていると思う。
ただ、彦九郎を演じた三國連太郎が自撰十本を佐野眞一に語る『怪優伝』<講談社>の、この『夜の鼓』に今井監督の実体験が色濃く投影されているといった記述を読んでいたこともあり、彦九郎の湧き上がる疑念や感情の爆発を観るに、どうしてもそのことを考えざるをえなかった。
役者陣では、その三國連太郎の、何も知らずに嬉々として国許へ帰ってきたのち、どんどんと精神的に追い込まれていく変化のあり様が、やはり流石だなとまずもって感心した。
一方、お種の有馬稲子のどこか退廃的な美しさにも舌を巻く。
見るからに何かやるだろう、と言ってはざんないが、この艶っぽさ色っぽさは、そりゃそうなるやろ、と思わざるをえない。
また、鼓の師匠宮地の森雅之の苦み走った色男(どこか薄情さも感じさせる)ぶりも適役だし、お種を不義に走らせる磯辺床右衛門の金子信雄の小悪、ならぬ中悪ぶり(プレ山守組長!)も印象深い。
ほかに、先述したベテラン陣に加え、殿山泰司(彦九郎の妹の夫。人間味のある役回り)、奈良岡朋子(女中役。物語の鍵となる人物でもある。巧い)、雪代敬子、中村萬之助(現吉右衛門。フィルムシアターのプログラムには、錦之助とあるがこちらが正解。萬の字が萬屋=錦之助につながったのかな?)毛利菊枝、夏川静江、菅井一郎、柳永二郎、松本染升、東恵美子、草薙幸二郎らが出演。
正直、誕生日にチョイスせず正解だった一本。
むろん観て損はしない作品だけど。
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