監督:溝口健二
原案:野田高梧
脚本:依田義賢、新藤兼人
(2012年6月6日、京都文化博物館フィルムシアター)
戦前の『浪華悲歌』や『祗園の姉妹』から、代表作の『西鶴一代女』、そして遺作の『赤線地帯』と、虐げられた女性の悲しみを巧みに描いた溝口健二だから、婦人解放の先駆者である福田英子(劇中は平山英子)の半生を扱った『わが恋は燃えぬ』など、それこそ溝口健二ぴったりの作品…。
と、そうは問屋がおろさないのだ。
溝口健二が得意とするところは、あくまでも虐げられた弱い、しかしだからこそ強い女であって、胸を張って先陣切って闘う女性の描写はごうも苦手なのではないだろうか。
と、言うより、冒頭の女性解放どうこうといったスローガン風の文章からして、敗戦後の時流に合わせて掲げられた看板みたくどうしても感じられてしまうのだ。
少なくとも、自由党党員から藩閥の犬と成り下がった早瀬(小沢栄=栄太郎)や、自由党の領袖で進歩主義者ながら、女性に対しては旧態依然の考えの持ち主である重井=大井憲太郎(菅井一郎)に裏切られて覚醒する平山英子(田中絹代)よりも、貧しさゆえに身売りされ、どん底にまで身を落とし、それでも男を求めざるをえない、英子とは対照的な千代(水戸光子)のほうこそ、溝口健二がじっくりたっぷりと描くに相応しい人物ではないかと思わずにはいられなかった。
(田中絹代は「硬い」演技だが、新藤兼人監督の『ある映画監督の生涯 溝口健二の記録』での彼女を思い起こすに、この硬さが彼女の地に近いのかもしれない)
ほかに三宅邦子、荒木忍、千田是也、東野英治郎、松本克平、清水将夫、沢村貞子、小堀誠、宇野重吉らが出演。
小沢栄太郎をはじめ、左翼演劇人として投獄された経験のある人が少なくない。
(しかも、沢村貞子など、それこそ女囚役をやっている)
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